世界株式市場が波乱の様相を呈しているなか、アジア新興国から4-6月に大規模な資金が流出しました。米利上げや世界的なリセッション懸念で、投資家が新興国から資金を引き揚げていることが背景です。しかし、アジア新興国の中でも中国本土株式市場は4-6月に資金流入となりました。今後、資金流入が続くかどうか、中国経済の動向にも大きく左右されると思われます。今回は、アジア新興国への資金動向と、中国経済の現状や見通しを確認してみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(7/5) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
iS MSCIチャイナ(02801) | 24.00香港ドル | 34.60香港ドル | 18.36香港ドル |
iS CSI300(02846) | 34.34香港ドル | 41.02香港ドル | 29.00香港ドル |
比亜迪 (Byd)(01211) | 313.60香港ドル | 333.00香港ドル | 165.00香港ドル |
リーオート ADR(LI) | 37.70米ドル | 41.49米ドル | 16.86米ドル |
小鵬汽車 A(09868) | 121.60香港ドル | 220.00香港ドル | 71.85香港ドル |
ニオ インク A(09866) | 170.20香港ドル | 199.20香港ドル | 100.80香港ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
世界株式市場が波乱の様相を呈しているなか、アジア新興国から大規模な資金流出が発生しています。
ブルームバーグによると、インドとインドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、台湾、タイの7カ国・地域の株式市場は、4-6月に計400億ドルの資金流出(純流出)を記録しました。その規模は、2008年の世界金融危機時を上回りました。米利上げや世界的なリセッション懸念で、投資家のリスク回避志向が高まり、新興国から資金を引き揚げていることが背景です。
過去の経験からすると、新興国から資金が引き揚げられた際、中国も同じく資金流出となる傾向が強いです。しかし、中国本土株式市場は4-6月に、144億ドルの資金流入(純流入)となりました(図表2の左図)。
図表2 アジア新興国市場への資金流出入(億ドル)
注)香港上場の中国株への資金流出入の統計はないため、中国株への資金動向は中国本土市場だけのデータを採用しました。香港証券取引所が公表している中国本土と香港のストックスコネクトを通じた海外投資家による中国A株の取引データがもとになっています。
※Bloombergおよび香港証券取引所のデータをもとにSBI証券が作成
海外投資家による中国本土市場への資金動向を確認してみると(図表2の右図)、3月は大規模な資金流出となりました。しかし、4月以降は資金流入に転じ、6月は100億ドルを超える純流入額となりました。
中国株への資金流入は、中国株価指数の好調なパフォーマンスにつながりました。たとえば、MSCI新興国とMSCI先進国指数はいずれも年初来から下落トレンドが続いていますが、CSI300(上海・深セン300)とMSCI中国指数は5月以降、上昇が続いています。
図表3 CSI300とMSCI中国指数、およびMSCI新興国とMSCI先進国指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)
※BloombergをもとにSBI証券が作成
年初からの出来事を確認してみると、2月末にロシアがウクライナに侵攻し、世界株式市場は3月に大きく調整しました。特にCSI300とMSCI中国指数は、米中対立激化への懸念から下げが顕著でした。しかし、3月中旬に中国当局が経済支援とネット大手への締め付け緩和を表明したことをきっかけに、両指数は反発しました。
その後、米国がインフレ抑制に向け、利上げペースを加速することへの懸念から、MSCI先進国とMSCI新興国指数は4月以降、下落トレンドが続きました。CSI300とMSCI中国指数も4月は、中国が金融緩和を見送ったことで売られました。5月に中国が利下げを実施すると、両指数は上昇トレンドに入りました。
6月は、米国が大幅な利上げに踏み切ったことで、MSCI先進国とMSCI新興国指数は年初来安値を試す展開となりました。一方、CSI300とMSCI中国指数は続伸しました。米利上げ加速で世界的なリセッション懸念が強まるなか、中国は利下げや経済支援策で景気回復が見込まれるためです。6月の中国株への大規模な資金流入は、このような金融政策と経済見通しの相違が背景にあったと考えられます。
中国株の反発は今年後半も続くかどうか、その検証に当たり、中国経済の動向確認が重要になってくると思います。そこで今回は、主にマクロ経済に焦点を当てたいと思います。
主要経済指標のうち、まず、金融政策に大きく影響を与える消費者物価指数(CPI)と、景気先行指数である購買担当者指数(PMI)の動向を世界比較で確認してみます。
欧米が高インフレに悩まされるなか、中国のインフレ率(CPI)は2%台と低水準です(図表4の左図)。欧米がインフレ抑制に向けて利上げに踏み切り、中国が利下げを実施しているのは、このようなインフレ動向の差異が背景にあります。
図表4 消費者物価指数(CPI)と購買担当者指数(PMI)の推移
※BloombergをもとにSBI証券が作成
他方、景気先行指数であるPMIの動向を確認していみると(図表4の右図)、欧米では利上げによるリセッション懸念でPMIが鈍化していますが、中国は4月以降、PMIが回復しました。利下げと経済支援策が景況感の改善につながりました。そのうち非製造業PMIの急回復は、上海のロックダウン解除も寄与したとみられます。
その他の主要経済指標からも、中国経済は4月を底に回復していることが示されています。中国が5月末に打ち出した経済支援策の効果が6月以降に表れることを考慮すると、中国のGDP成長率は4-6月期を底に7-9月期以降は回復に向かう可能性が高そうです。
図表5 中国の主要経済指標の推移(前年同月比、%)
※BloombergをもとにSBI証券が作成
他方、中国経済にとって大きな懸念材料である不動産市場の動向も確認しておく必要があります。図表5の右図から分かるように5月は鉱工業生産と小売売上高は回復しましたが、固定資産投資は鈍化しました。主に不動産投資が足を引っ張りました。新型コロナの感染拡大を受けた行動制限による影響とみられます。ただし、不動産投資の減少幅は4月より縮小しました。
不動産販売も5月は前年同月比32%減となり、その減少率は4月の同39%減を下回りました。民間統計からすると、減少率の縮小は6月も続いた模様です。中国不動産大手の万科(02202)の郁亮会長は6/28に、不動産市場が短期的に底打ちしたとの認識を示しました。
新築住宅価格の前月比伸び率を確認してみると、足元で下げ止まりの気配が示されています(図表6)。この指標は買い手にとって重要な指標です。住宅価格に先安観が続けば、買いを手控える人が増えるからです。一方、住宅価格の先高感が醸成されれば、購入に向けた支援措置(たとえば住宅ローン金利の引き下げ)も効果を発揮しやすくなります。
図表6 新築住宅価格と乗用車販売台数の推移
※BloombergをもとにSBI証券が作成
他方、不動産市場の回復が緩やかなペースになると予想されることもあり、中国当局は不動産以外の支援策も打ち出しています。特に「目玉政策」の一つとされているのが、自動車購入の支援です。自動車産業は不動産と同様に裾野が広いうえ、自動車(特に新エネルギー車)は不動産より需要が堅調なことが背景と考えられます。
中央政府の支援意向に沿って、各地方政府も新エネルギー車の購入支援を相次いで打ち出しています。新車種の発表も相まって、新エネルギー車は今後、販売拡大が予想されます。したがって、新エネルギー車関連銘柄は年後半の注目テーマとなりそうです。
なお、中国の新エネルギー車関連銘柄をめぐっては先週、新興EVメーカーのニオに対する「空売りレポート」で売りに押される局面もありました。ニオに対する「空売りレポート」は押し目買いのチャンスを提供した可能性があります。詳細は、「中国株 ココがPOINT! 〜新興EV大手のニオに対する「空売りレポート」、いよいよ本格化する経済再開〜」の「今回のトピックス」部分をご参照願います。
全般的にみて、中国経済は金融緩和と経済支援策で年後半は回復が見込まれます。世界的なリセッション懸念が高まるなか、中国経済の底堅さは中国株への選好につながる可能性があります。中国株主要指数は6月の急反発を経て短期的には利益確定売りに押される局面も想定されますが、調整時は押し目買いのチャンスとなりそうです。
図表7 主要中国株ETF
連動する指数 | 組入上位銘柄(6/30時点) | |
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iS MSCIチャイナ(02801) | MSCIチャイナ指数 | テンセント(00700)、アリババ(09988)、美団(03690)、中国建設銀行(00939)、JDドットコム(09618) |
Tracker Fund香港(02800) | ハンセン指数 | AIA(01299)、HSBC(00005)、アリババ(09988)、テンセント(00700)、美団(03690) |
iS FTSE A50(02823) | FTSE A50中国指数 | 貴州茅台酒 (600519)、招商銀行(600036)、五糧液(000858)、CATL(300750)、BYD(002594) |
iS CSI300(02846) | CSI300指数 | 貴州茅台酒 (600519)、CATL(300750)、招商銀行(600036)、中国平安保険(601318)、五糧液(000858) |
iシェアーズ 中国大型株 ETF(FXI) | FTSE中国50指数 | アリババ(09988)、美団(03690)、テンセント(00700)、中国建設銀行(00939)、JDドットコム(09618) |
ウィズダムツリー 中国株ニューエコノミーF(CXSE) | ウィズダムツリー中国企業(除く国有企業)指数 | テンセント(00700)、アリババ(09988)、美団(03690)、JDドットコム(09618)、CATL(300750) |
ヴァンエック チャイネクスト ETF(CNXT) | ChiNext指数 | CATL(300750)、東方財富信息 (300059)、邁瑞生物医療電子(300760)、匯川技術 (300124)、温氏食品(300498) |
※Bloombergおよび当社ホームページのETF情報をもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。