米国株式市場では、景気・業績に対する懸念が高まるにつれ、ヘルスケア、公益事業、生活必需品など、景気への感応度が低いと考えられるディフェンシブセクターに対する注目が高まっているようです。6/1(水)に掲載したヘルスケアセクターに関するレポートに続いて、今回は公益事業についてご報告いたします。
図表1 注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(7/12) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
公益事業セレクト セクター SPDR ファンド(XLU) | 69.92ドル | 77.23ドル | 63.37ドル |
ネクステラ エナジー(NEE) | 79.95ドル | 93.73ドル | 67.22ドル |
デューク エナジー(DUK) | 107.67ドル | 116.33ドル | 95.48ドル |
サザン(SO) | 71.98ドル | 77.24ドル | 60.99ドル |
ドミニオン エナジー(D) | 79.25ドル | 88.78ドル | 70.37ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
米国株式市場では景気や企業業績の先行きに不透明感が強まっていることから、ディフェンシブセクターに対する注目が高まっています。そこで今回は代表的なディフェンシブセクターの一つである公益事業を取り上げます。
第1節で公益事業セクターの日本の投資家にとっての意味、セクターの概要、年初来の株価パフォーマンスを確認した後、第2節では業績動向と業界トレンド、第3節では注目銘柄をご紹介いたします。
〇日本の投資家にとっての意味
米国の「公益事業」は州政府によって規制を受ける事業が大半を占めるため、大きな「超過利潤」が持続的に発生することは少なく、一般的に株式の投資対象としては面白みに欠けます。
景気が不安定なときにディフェンシブ性に注目して買ったのはいいが、相場全般が軟調で相対的にはアウトパフォームしても絶対水準ではあまり儲からなかったということがよくあります。このため筆者も過去7年間執筆してきた「外国株式特集レポート」で公益事業をセクターとして取り上げた記憶はありません。
しかし、日本の投資家の米国株投資のすそ野が広がってきたことで、「相場が不安定なときにポートフォリオをディフェンシブセクターにシフトしておきたい」、または、「ドルの保有が主目的で株式で大きく儲けなくてもよい」といった需要もあるのではないかと考え直し、今回初めて取り上げることとしました。
〇米国市場の公益事業セクターの概要
S&P500指数に占める公益事業セクターの時価総額比率は3.0%で、GICS(世界産業分類基準)の11業種分類で9番目と比較的マイナーな存在です(7/11(月)時点)。銘柄数は29銘柄が採用されており、時価総額の上位はネクステラエナジー、デュークエナジー、サザンといった電力会社が占めています。
公益事業の内のサブセクターには、電力、総合公益事業(電力とガスの併営が多い)、水道・ガス・独立系電力などがあり、公益事業セクターに占める比率は、それぞれ63%、31%、6%で、電力が中心です。
〇 株価は安定的にS&P500指数をアウトパフォーム
S&P500指数の公益事業指数の年初来の株価は図表2の上図の通りです。年初から7/8(金)まで、市場平均のS&P500指数が18.2%下落しているのに対して、公益事業指数の株価変動性も高いものの通算での下落率は2.4%にとどまり、ディフェンシブ性を発揮していると言えます。
さらに、公益事業指数のS&P500指数に対する相対株価(※)をとってみると、図表2の下図の通り右肩上がりとなって、安定したアウトパフォーマンスとなっています。
4-6月期の決算発表の時期を迎えて、企業業績全体としては下方修正されるのではないかと懸念されており、景気への感応度が低い公益事業は相対的に安定したパフォーマンスをあげる可能性が注目されています。
※相対株価は2つの株価の相対的な強さ、弱さを示すもので、相対株価の上昇は公益事業がS&P500指数よりも強いことを、相対株価の下落は公益事業がS&P500指数よりも弱いことを示します。
図表2 公益事業指数と相対株価(対S&P500指数)
注:最後のデータは7/8(金)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇公益事業セクターの主要銘柄
S&P500指数に採用されている29銘柄のうち、時価総額上位15銘柄を図表3に抽出しました。
再生可能エネルギーの比率が高く、このセクターとしては珍しく「成長企業」と目されているネクステラエナジー、セクターの売上が米国最大のデュークエナジー、30年ぶりの原子力発電所稼働で注目されているサザンなどが比較的良く知られている銘柄です。
〇公益事業の業績動向
公益事業の業界では、事業構造を変換するため、ここ数年M&Aが活発に行われてきました。今期(2022年度)の売上はその名残で前年度比で大きく変動している会社があります。一方、来期(2023年度)については、そのような動きは一服して、2〜5%の増収が見込まれている会社が多くなっています。
EPSについても、今期は大幅な変動が予想されている会社が散見されますが、来期は5〜8%の増益予想の会社が多くなっています。主要な公益事業の会社は、中期的なEPSの成長目標として「年率5〜8%」を掲げる企業が多く、これに沿った形です。
州政府による規制事業については、燃料費、外部から調達するエネルギー費、支払利息などの費用の上昇は基本的に顧客に転嫁することが認められています。このためインフレ高進の環境下でも安定的な業績をあげることができると期待されます。
一方、オペレーション&メンテナンス(O&M)の費用は価格転嫁の対象外です。このため、この部分をいかに管理していくかが利益率を改善できたり、悪化したりの違いとなります。
業界のO&M費用の増加率(中央値)は、2022年が前年比0.2%増、2023年が同0.8%増と低い伸びに抑えられる見込みで、業界全体として増益が予想される背景になっています(Bloombergアナリストの集計、6/13(月)時点)。
〇公益事業の業界トレンド
このところ規制外の事業を売却して規制事業の比率を高めることが業界のトレンドとなっています。規制外のエネルギー事業はリスクが高いとの認識が広がったためと考えられます。
業界の設備投資は2022年に前年比22%増加して、過去16年で最高の伸びになると見込まれています(Bloombergアナリストの集計、6/13(月)時点)。再生可能エネルギーへの移行、送電網の信頼性向上のための投資、古いガスパイプラインの更新などが要因です。
規制事業では投資額に対して一定の投資リターンを得ることが認められているため、一般的に投資の増加は利益の増加につながる傾向があります。
〇米公益事業のETF
公益事業は米国の内需企業ですし、第1節でお伝えした通り、株式投資の対象としては魅力に欠ける部分があると思います。このため、ポートフォリオをディフェンシブにしたいという目的であれば、必ずしも個別銘柄に投資しなくても銘柄分散されたETFで用が足りるケースも多いでしょう。
当社が取り扱っている米国上場の公益事業ETFとして、(1)公益事業セレクト セクター SPDR ファンド(XLU)、(2)バンガード 米国公益事業セクター ETF(VPU)、(3)iシェアーズ グローバル公益事業 ETF(JXI)の3つがあります。
(1)はS&P500指数の公益事業指数に連動を目指すETF、(2)はS&P500指数に組み入れられているかどうかにこだわらず、広く米国の公益事業銘柄を組み入れたETFです。(3)はグローバルに公益事業銘柄を組み入れたETFですが、米国の公益事業の銘柄が65%を占めています。
図表3 主要公益事業銘柄の業績推移
コード | 銘柄名 | 今期予想 売上 (億ドル) |
今期予想 EPS (ドル) |
今期予想 増収率 (%) |
来期予想 増収率 (%) |
今期予想 増益率 (%) |
来期予想 増益率 (%) |
サブセクター |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
NEE | ネクステラ・エナジー | 211 | 2.85 | 23.8 | 9.6 | 11.8 | 7.6 | 電力 |
DUK | デューク・エナジー | 265 | 5.45 | 5.4 | 3.3 | 4.0 | 5.7 | 電力 |
SO | サザン | 242 | 3.55 | 4.7 | 2.2 | 4.2 | 6.3 | 電力 |
D | ドミニオン・エナジー | 160 | 4.12 | 14.9 | 4.7 | 6.7 | 6.7 | 総合公益事業 |
AEP | アメリカン・エレクトリック・パワー | 176 | 5.00 | 5.0 | 2.4 | 5.4 | 5.8 | 電力 |
SRE | センプラ・エナジー | 135 | 8.52 | 5.4 | 2.5 | 1.0 | 5.4 | 総合公益事業 |
EXC | エクセロン | 186 | 2.26 | -48.8 | 3.1 | -19.8 | 6.6 | 電力 |
XEL | エクセル・エナジー | 137 | 3.17 | 2.0 | 2.0 | 7.0 | 7.1 | 電力 |
ED | コンソリデーテッド・エジソン | 141 | 4.51 | 3.0 | 3.5 | 2.7 | 7.7 | 総合公益事業 |
WEC | WECエナジー・グループ | 85 | 4.37 | 2.5 | 4.5 | 6.3 | 5.4 | 総合公益事業 |
PEG | PSEG | 90 | 3.49 | -7.6 | 5.2 | -4.5 | 4.8 | 総合公益事業 |
ES | エバーソース・エナジー | 104 | 4.11 | 5.5 | 3.5 | 6.5 | 6.8 | 電力 |
AWK | アメリカン・ウォーター・ワークス | 39 | 4.46 | -1.9 | 6.3 | 4.9 | 8.4 | 水道 |
DTE | DTEエナジー | 146 | 5.97 | -2.7 | 3.0 | -0.3 | 5.0 | 総合公益事業 |
EIX | エジソン・インターナショナル | 156 | 4.52 | 4.6 | 4.9 | -1.6 | 7.7 | 電力 |
注:データは7/8(金)時点です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 主要公益事業銘柄の投資指標
コード | 銘柄名 | 株価 (7/8) (ドル) |
予想 PER (倍) |
今期予想 配当 (ドル) |
予想配当 利回り (%) |
株価騰落 (年初来) (%) |
目標株価 (ドル) |
時価総額 (億ドル) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
NEE | ネクステラ・エナジー | 79.11 | 29.6 | 1.69 | 2.1 | -14.0 | 90.09 | 1,577 |
DUK | デューク・エナジー | 106.34 | 19.4 | 3.99 | 3.8 | 1.0 | 114.85 | 816 |
SO | サザン | 70.82 | 19.6 | 2.70 | 3.8 | 3.8 | 72.72 | 756 |
D | ドミニオン・エナジー | 79.43 | 19.0 | 2.67 | 3.4 | 1.0 | 88.82 | 644 |
AEP | アメリカン・エレクトリック・パワー | 93.58 | 18.5 | 3.15 | 3.3 | 6.0 | 106.87 | 484 |
SRE | センプラ・エナジー | 146.99 | 17.2 | 4.66 | 3.2 | 11.3 | 171.82 | 463 |
EXC | エクセロン | 43.62 | 19.5 | 1.40 | 3.1 | 7.5 | 49.28 | 434 |
XEL | エクセル・エナジー | 69.89 | 21.7 | 1.96 | 2.8 | 2.8 | 75.50 | 379 |
ED | コンソリデーテッド・エジソン | 92.69 | 20.1 | 3.17 | 3.5 | 7.8 | 87.94 | 326 |
WEC | WECエナジー・グループ | 98.86 | 22.9 | 2.91 | 2.9 | 2.5 | 105.94 | 314 |
PEG | PSEG | 62.56 | 19.9 | 2.16 | 3.5 | -6.4 | 74.32 | 312 |
ES | エバーソース・エナジー | 83.37 | 20.0 | 2.55 | 3.1 | -8.4 | 92.53 | 287 |
AWK | アメリカン・ウォーター・ワークス | 149.65 | 35.1 | 2.58 | 1.7 | -20.1 | 159.57 | 274 |
DTE | DTEエナジー | 124.19 | 21.0 | 3.56 | 2.8 | 4.4 | 139.03 | 242 |
EIX | エジソン・インターナショナル | 62.47 | 13.8 | 2.80 | 4.5 | -8.7 | 74.00 | 237 |
注:データは7/8(金)時点です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇 公益事業セレクト セクター SPDR ファンド(XLU)
【米国公益事業のETF】
・ステートストリートが提供するS&P500指数の公益事業セクター指数に連動を目指すETFです。組入れ銘柄数は29で、分野別の組入比率は電気64%、総合公益事業31%、水道、ガス・その他5%となっています(6月30日時点)。
・ETF運用会社が計算する当ファンドの投資指標は、予想PERが20.2倍、配当利回りが2.89%です(6月30日時点)。基準価格のパフォーマンスは年初来-1.0%、過去1年で+11.3%、過去3年で+26.0%です(7月12日時点)。純資産は155億ドル、総経費率は0.11%です(6月30日時点)。
〇 ネクステラ エナジー(NEE)
【成長性が高く、このためPERも高い】
・フロリダ地盤の電力会社。主要子会社のフロリダ・パワー&ライトは、フロリダ州の約半分にあたる570万の顧客にサービスを供給します。もう一つの主要子会社ネクステラ・エネジー・リソーシズは、風力と太陽光の再生可能エネルギーで世界最大で、蓄電でも世界的リーダー企業です。成長性が高いことを背景に、PERが20倍台後半と他社に比べて高く買われていたため、年初来の株価は下落となっています。ディフェンシブな銘柄への投資を検討するという今回の主旨からやや離れる部分がある点は、ご注意ください。
・2023年は他社を上回る10%の増収が予想されていますが、今後数年も業界平均を上回る成長が続くと見込まれています。ネクステラ・エネジー・リソーシズは米国最大の再生可能エネルギーの開発企業として、政府による環境政策の恩恵を受けると期待されます。1-3月期決算は、高騰した天然ガスのヘッジ損失で売上が前年同期比22%減で赤字に転落しました。一方、一時損失を除く調整後EPSは前年同期比10%増でした。6/14(火)に発表された業績アップデートで、2022年の調整後EPSを従来予想の2.75〜2.85ドルから2.80〜2.90ドルに引き上げており、業績は堅調に推移しているようです。中期のEPS成長率は6〜8%を目標としています。
〇 デューク エナジー(DUK)
【米国最大の電力会社】
・ノースカロライナ、サウスカロライナ、フロリダ、インディアナ、オハイオ、ケンタッキーの6州で820万の顧客に電力を供給しています。ガスも160万の顧客に供給しています。燃料別発電構成比は2021年に石炭が22%を占めますが2030年には5%に引き下げ、天然ガス、風力、太陽光などの再生可能エネルギーにシフトする計画です。成長投資の資金確保と財務的な弱さを解消することが課題となっており、インディアナの事業の持分売却(2023年1月末までに19.9%の株式を20.5億ドルで売却予定)を計画しています。
・2022年12月期は売上が前年比5%増、EPSが同4%増の予想です。2026年までの調整後EPSの成長目標を5〜7%としています。1-3月期の調整後EPSは前年同期比3%増でした。電力需要の増加を冬のストーム関連の費用が一部相殺しています。GAAPベースのEPSはインディアナ州の最高裁判所で決まった石炭灰の規則に関連する引き当てを積んだことで同14%減でした。
〇 サザン(SO)
【全米第2位の電力・ガス供給会社】
・全米2位の電力・ガス供給会社です。ジョージア州を地盤に4州で900万の顧客にサービスを提供しています。2002年から2022年まで21年連続で増配を達成する見込みです。米国で30年ぶりの原子力発電所となるボーグル3号機、4号機が注目されています。パンデミックによって工事が遅れましたが、それぞれ2022年第4四半期〜2023年第1四半期、2023年第3四半期〜第4四半期に稼働開始の計画です。
・2022年12月期は売上が前年比5%増、EPSが同4%増の予想です。1-3月期は燃料価格の上昇を反映して売上は前年同期比13%増と伸びたものの、保守運用費用の増加で調整後EPSは同1%減にとどまりました。
〇 ドミニオン エナジー(D)
【バージニア地盤の総合公益事業】
・バージニア州を地盤に16州で約700万の顧客に電気およびガスの供給を行う総合公益事業の会社です。売上の90%が規制事業からなります。2050年までに発電とガスインフラのカーボンニュートラルにコミットしており、この目的で2026年にかけて320億ドルの投資を行う計画です。
・2022年12月期は売上が前年比15%増、EPSが同7%増の予想です。2026年までの年平均成長率としてEPSは6.5%、配当は6%を掲げています。1-3月期決算は、売上・営業利益とも前年同期比11%増と堅調でした。2022年9月期の調整後EPSガイダンスは3.95〜4.25ドルで維持されました。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。