米国の景気減速が続いているため、景気への感応度が低いディフェンシブ業種に対する株式市場の関心は継続することが想定されます。今回はディフェンシブ業種の中でも飛びぬけて知名度が高いものがない、食品業種についてご報告いたします。値下がりが回避されているだけでなく、意外にパフォーマンスの良いものが多い印象です。
図表1 注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(8/23) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ラム ウェストン ホールディングス(LW) | 81.59ドル | 83.29ドル | 49.71ドル |
ハーシーズ(HSY) | 232.56ドル | 234.28ドル | 167.80ドル |
ケロッグ(K) | 76.19ドル | 76.99ドル | 59.54ドル |
キャンベルスープ(CPB) | 51.16ドル | 51.94ドル | 39.76ドル |
ゼネラルミルズ(GIS) | 77.87ドル | 78.36ドル | 56.67ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
米国市場は6月半ばから8月半ばにかけて15%を超える大幅な戻りを見せましたが、これは景気が回復しているとか、企業業績がよくなっているといった理由ではなく、もっぱらインフレがピークアウトする兆しを受けて、FRBの利上げ姿勢が軟化するとの期待からPERが回復したことによるものです。
米国経済は引き続き減速局面にあり、企業業績も通期EPSは下方修正基調となっています。このような投資環境下では、景気への感応度が低いディフェンシブ業種は引き続き注目できると考えられます。
〇年初来プラスを維持する「食品・飲料・タバコ」
S&P500指数の24業種分類で年初来(8月22日まで)の株価騰落がプラスとなっているのは、エネルギーの46.2%、公益事業の8.7%、食品・飲料・タバコの6.6%、保険の3.0%の4業種です。同期間でS&P500指数の値下がりは13.2%となっています。
このうち食品・飲料・タバコの年初来の株価推移をS&P500指数と比較したのが図表2です。相場全体が下げるときにあまり下がらない一方で、相場全体が上昇するときにはある程度追随して上昇していることがわかります。
市場全体が戻った6月半ば以降も、S&P500指数にさほど劣後することなく上昇していることが確認できます。景気減速懸念が継続する局面では、引き続き堅調に推移する可能性が高そうです。
〇意外に大きく上昇しているものも多い
「食品・飲料・タバコ」構成銘柄をみると(図表3)、22の構成銘柄のうち17銘柄が年初来プラスを維持しています。業種全体に幅広く物色されていることがわかります。
さらに、ディフェンシブということで株価の値下がりが回避されているだけでなく、15%以上上昇しているものが7銘柄と、意外に大きく上昇しているものが多いことがわかります。
図表2 年初来プラスのリターンを維持する食品・飲料・タバコ指数
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3 「食品・飲料・タバコ」構成銘柄の多くが年初来プラスを維持
コード | 銘柄名 | 事業内容 | 株価騰落 年初来 (%) |
時価総額 (億ドル) |
---|---|---|---|---|
ADM | アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド | 穀物商社 | 29.9 | 489 |
LW | ラム・ウェストン・ホールディングス | 冷凍ポテトなど | 29.6 | 118 |
HSY | ハーシー | チョコレート菓子 | 21.2 | 478 |
TAP | モルソン・クアーズ・ビバレッジ | ビール | 21.1 | 122 |
CPB | キャンベルスープ | スープなどの食材とスナック | 19.9 | 154 |
K | ケロッグ | 朝食用シリアルで有名 | 19.4 | 261 |
GIS | ゼネラル・ミルズ | シリアル、スナック、冷凍食品など | 17.6 | 464 |
KO | コカ・コーラ | ソフトドリンク | 10.1 | 2,818 |
KHC | クラフト・ハインツ | ケチャップ、ソース、チーズなど | 9.3 | 472 |
KDP | キューリグ・ドクターペッパー | ソフトドリンク | 8.8 | 566 |
BF/B | ブラウン・フォーマン | 蒸留酒 | 6.6 | 367 |
PM | フィリップ・モリス・インターナショナル | タバコ | 6.2 | 1,552 |
CAG | コナグラ・ブランズ | 冷凍冷蔵食品 | 5.8 | 170 |
HRL | ホーメルフーズ | ハム、ソーセージ、ベーコンなど | 5.6 | 279 |
PEP | ペプシコ | ソフトドリンク | 4.1 | 2,486 |
SJM | JMスマッカー | コーヒー、ジャム、ピーナッツバターなど | 3.7 | 149 |
STZ | コンステレーション・ブランズ | ビール、ワイン | 2.5 | 479 |
MO | アルトリア・グループ | タバコ | -0.7 | 819 |
MDLZ | モンデリーズ・インターナショナル | スナック菓子 | -1.6 | 896 |
MKC | マコーミック | スパイス、ハーブなどの調味料 | -5.7 | 246 |
MNST | モンスタービバレッジ | ソフトドリンク | -6.7 | 477 |
TSN | タイソン・フーズ | 食肉加工 | -6.8 | 294 |
注:S&P500指数の食品・飲料・タバコ業種の構成銘柄です。データは8/22(月)時点です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
前節では「食品・飲料・タバコ」についてみてきましたが、第2節以降は「食品」に絞ってみていきます。
〇食品業種の構成銘柄
食品以外なら、飲料ではコカ・コーラ、ペプシコ、タバコではフィリップモリスインターナショナル、アルトリアグループと、時価総額が大きい代表的な銘柄が個人投資家にも比較的よく知られています。
一方、食品については時価総額がいずれも1,000億ドル以下で中小型株に分類されるものが大半であり、飛びぬけて知名度が高いものがないのが特徴です。
食品の銘柄はS&P500指数に13銘柄含まれていますが、他の銘柄と性格が異なるのが穀物商社のアーチャーダニエルズミッドランドで、これ以外の12銘柄はいずれも「パッケージ食品」の会社です。
〇食品業種の業績動向
食品業界の業績は、新型コロナのパンデミックで自宅での食事機会が増えたことから2020年にも落ち込むことなく、2021年には需要の拡大により業界トレンドを上回る伸びとなりました。2022年もコスト増に対応した値上げを行っている企業が多いことから、増収・増益となる見込みで、業績堅調な推移が見込まれています。
ウォルマートやターゲットなど大手小売企業の決算コメントでは、消費者の需要は耐久財や雑貨で弱さが見られる一方、食品や日用品などの必需品への需要は堅調としており、食品業界のファンダメンタルズは足もとでも堅調と考えられます。
図表5で個別企業の業績推移を確認すると、全体的な傾向として今期の利益の伸びは低いものの、来期に伸びが高まる企業が多くなっています。今期は原材料高や輸送費上昇の影響で利益率を維持するのがやっとという企業が多いものの、来期にかけては製品価格引き上げの効果が勝ってくると予想されているようです。
今期の通期予想EPSは、すべての企業で過去3ヵ月に下方修正されています。原材料高や米ドル上昇による海外売上の目減りが業績予想に織り込まれた結果とみられます。
図表5は、図表3で示した銘柄のうち、食品業種のみに絞ったものを年初来の株価上昇率の高い順に並べたものです。上位の5銘柄について、次節でご紹介いたします。
図表4 食品業界の業績推移(一株当たり、ドル)
注:S&P500指数のサブセクター指数、食品指数の売上、EPSの集計値の推移です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5 食品銘柄の業績予想と投資指標
コード | 銘柄名 | 株価 (8/22) (ドル) |
予想 PER (倍) |
目標株価 (ドル) |
予想売上 増加率 (今期) (%) |
予想売上 増加率 (来期) (%) |
予想EPS 増加率 (今期) (%) |
予想EPS 増加率 (来期) (%) |
今期予想 EPS修正率 (3ヵ月) (%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
LW | ラム・ウェストン・ホールディングス | 81.26 | 29.0 | 83.9 | 14.5 | 7.6 | 147.0 | 35.4 | -6.4 |
HSY | ハーシー | 231.42 | 27.1 | 231.2 | 10.5 | 5.7 | 0.1 | 8.2 | -1.2 |
K | ケロッグ | 75.62 | 18.3 | 74.5 | 4.1 | 1.8 | -10.6 | 3.7 | -5.3 |
CPB | キャンベルスープ | 50.85 | 17.7 | 47.2 | 5.8 | 2.7 | 1.5 | 2.6 | -5.1 |
GIS | ゼネラル・ミルズ | 77.5 | 19.4 | 72.4 | 2.7 | 1.9 | -0.6 | 6.1 | -0.8 |
KHC | クラフト・ハインツ | 38.41 | 14.1 | 42.3 | -0.4 | 0.5 | -5.7 | 3.3 | -2.5 |
HRL | ホーメルフーズ | 50.72 | 26.0 | 46.3 | 4.3 | 2.9 | 4.9 | 8.9 | -11.9 |
CAG | コナグラ・ブランズ | 35.15 | 14.6 | 36.4 | 6.2 | 1.2 | 2.2 | 7.0 | -7.9 |
SJM | JMスマッカー | 137.75 | 17.4 | 131.5 | 0.7 | 2.4 | -33.0 | 14.0 | -33.5 |
MDLZ | モンデリーズ・インターナショナル | 64.51 | 21.7 | 72.8 | 3.4 | 4.0 | -1.4 | 7.6 | -4.5 |
MKC | マコーミック | 90.34 | 27.8 | 85.2 | 5.0 | 3.9 | 3.4 | 8.7 | -3.6 |
TSN | タイソン・フーズ | 80.45 | 10.9 | 94.7 | 5.4 | 2.0 | -23.0 | -13.8 | -11.7 |
注:他の銘柄と事業の性格が異なる穀物商社のアーチャーダニエルズミッドランドは除いています。
※BloombergデータをもとにSBII証券が作成
〇ラム ウェストン ホールディングス(LW)
・レストランや小売業者に冷凍ポテトを提供しているアイダホ州に本社を置く会社です。冷凍ポテト業界で60年の経験をもち、数々の技術革新をリードしてきたと自負、米国では最大事業者となっています。100ヵ国以上に販売実績があり、毎日8,000万ポーション(一人前)の冷凍ポテトを販売しています。2016年に上場、2018年にS&P500指数に採用されています。
・3-5月期決算は売上が前年同期比14%増、営業利益は同38%増の一方、ロシア事業の償却の影響でEPSは同50%減となりました。様々なコスト増を相殺するために製品価格を15%引き上げています。販売数量はコンテナのひっ迫によって海外への出荷が制約を受けたことで同1%減でした。2023年5月期について、売上は47〜48億ドル(前年比15〜17%増)、EPSは2.45〜2.85ドル(前年比78〜107%増)のガイダンスを出しています。
〇ハーシーズ(HSY)
・チョコレート菓子に強みをもつ大手菓子メーカー。米国内シェア最大のHersey'sを擁するほか、ガム、キャンディ、スナックで90超のブランドを展開、「Kit Kat」も製造します。2021年12月期の売上は、北米のチョコレート、キャンディ類が86%、北米の塩味のスナックが6%、海外売上が8%を占めます。
・積極的な企業買収と海外売上の強化による成長を目指しています。4-6月期は売上が前年同期比19%増、調整後EPSが同22%増と好調でした。売上の伸びには買収の影響が5%ポイント、価格引き上げの寄与が10%ポイントありました。原材料高の影響で調整後粗利率は43.9%へ前年同期から2.5%ポイント低下しています。通期業績見通しについて、売上は従来の前年比10〜12%増から12〜14%増へ、調整後EPSは同10〜12%増から同12〜14%増へ引き上げています。
〇ケロッグ(K)
・朝食用シリアルを開発したことで有名です。スナック菓子企業の買収などで多角化を進め、2021年12月期の売上構成比は、スナック48%、シリアル36%、ヌードルほか8%、冷凍食品8%です。主要ブランドとして、「プリングルズ」「チーズイット」
「コーンフレーク」「グラノーラ」などがあります。北米売上が58%で、海外売売上の比率が高くなっています。
・4-6月期決算は、売上が前年同期比9%増(為替の影響を除くベースで同12%増)、EPSは同14%減(為替の影響を除くベースで同8%増)でした。スナックが世界的に好調で、新興国ではシリアルとヌードルも伸び、北米のシリアルでは予想以上の回復となっています。上半期の売上好調を受けて、通期の為替の影響を除く売上成長率を従来の前年比約4%増から同7〜8%増に引き上げています。
〇キャンベルスープ(CPB)
・加工食品メーカーです。スープとソース、ビスケットと菓子が事業の中心で、2021年7月期の売上構成比は、食材・飲料が54%、スナックが46%です。「Campbell’s」「Cape Cod」「Goldfish」「Prego」などのブランドを擁します。赤い缶の濃縮スープや野菜ジュースの「V8」は日本でも有名です。
・2-4月期は、売上が前年同期比7%増、調整後EPSは同37%増と好調でした。事業売却の影響を除く売上は同9%増で、販売数量は同3%減となったものの、価格引き上げの効果が同11%増と寄与しました。原材料費、輸送費上昇の影響は徐々に低下しつつあるとコメントしています。5-7月期決算を9/1(木)に発表予定です。
〇ゼネラルミルズ(GIS)
・ハーゲンダッツなど著名ブランドを擁し、シリアル、スナック、インスタント・冷凍食品を手掛ける食品大手。ペットフードにも展開。2022年5月期の売上構成比は、北米小売(ミール・ベイキング、朝食、スナックなど)61%、海外17%、ペット12%、北米フードサービス10%です。複数の欧州事業を売却する一方で、プレミアムペットフード、自然食品、オーガニック食品などの成長分野への集中度を高めることによって成長を維持しようとしています。
・3-5月期の売上は前年同期比8%増、為替やM&Aの影響を除くオーガニック売上成長は主に価格引き上げによって同13%増、調整後EPSは同23%増と堅調でした。価格引き上げによって様々なコスト増をカバーして、粗利率は36.2%へ前年同期から1.2%ポイントの改善となっています。2023年5月期については、前年度比で10%以上の原材料価格上昇を想定しており、これに対してコスト削減と価格引き上げで利益率を確保する方針と述べています。
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