今回は米国で8月半ばに成立した「歳入・歳出法」の気候変動対策から恩恵を受ける銘柄を取り上げます。EV大手のテスラのほか、クリーンエネルギーのETF、太陽光発電関連の銘柄をご紹介いたします。
図表1 注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(9/6) | 52週高値 | 52週安値 |
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テスラ(TSLA) | 274.42ドル | 414.50ドル | 206.86ドル |
iシェアーズ Globalクリーンエナジー ETF(ICLN) | 21.67ドル | 25.80ドル | 16.34ドル |
エンフェーズ エナジー(ENPH) | 292.82ドル | 308.88ドル | 113.40ドル |
ソーラーエッジ テクノロジー(SEDG) | 278.38ドル | 389.71ドル | 200.86ドル |
コンソリデーテッド エジソン(ED) | 97.75ドル | 101.57ドル | 71.52ドル |
ファースト ソーラー(FSLR) | 127.60ドル | 130.95ドル | 59.60ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は米国で先月成立した「歳出・歳入法」の気候変動対策の施策から恩恵が期待される環境関連銘柄をご紹介します。景気減速が続く投資環境下ですので、景気動向とは別の要因で業績の下支えがある銘柄への注目は高まると期待できるでしょう。
〇米国の「歳出・歳入法」(通称「インフレ抑制法」)
米国の「歳出・歳入法」は、8/16(火)に成立した法律で、もともとバイデン大統領が実現を目指していたものの、2021年末に不成立となった「ビルド・バック・ベター」法案の規模を縮小して成立に漕ぎつけたものです。
ホワイトハウスはインフレとの闘いをアピールするために「インフレ抑制法」と呼んでいますが、法律の内容からは、「歳出・歳入法」と呼ぶのが適当なようです。主な内容は図表2の通り、企業に対する課税を強化して、環境対策や薬価の引き下げを行うものです。
株式市場にとって直接的にはマイナスと捉えられる施策が多くなっていますが、歳出の85%を占める気候変動対策は関連銘柄に恩恵をもたらすと期待されます。
〇気候変動対策の主な内容
法律全体の予算規模は縮小されましたが、歳出の目玉である気候変動対策には、85%を占めるおよそ3,700億ドルが投入されます。日本円では50兆円を超えますので、インパクトは小さくないでしょう。
具体的な内容は図表3の通り、家庭の太陽光発電装置、電気自動車、省エネ機器などの購入に対するインセンティブが設けられています。
例えば、米国の平均的な家庭の太陽光発電装置に対して30%は7,500ドル(約100万円)に相当します。太陽光発電装置購入の強い動機付けになるのではないでしょうか。
需要が喚起されるため、これらの機器を生産する会社には恩恵が期待されます。米国経済はFRB(米連邦準備制度理事会)による積極的な利上げを受けて景気は減速傾向です。政策による業績の押し上げ効果が期待できる銘柄は注目されやすい環境と言えるでしょう。
図表2 米国の「歳出・歳入法」(インフレ抑制法)の主な施策
※各種報道をもとにSBI証券が作成
図表3 気候変動対策の主な内容
※ホワイトハウスのWEBサイトをもとにSBI証券が作成
電気自動車最大手のテスラのほか、気候変動対策で恩恵を受ける銘柄について、検討します。
〇環境関連銘柄で別格のテスラ
まず、別格で恩恵が大きいのがテスラと考えられます。気候変動対策では、メーカー別で年間20万台の上限が2023年1月から撤廃されるため、EVの販売台数が大きい同社への恩恵が大きくなります。
2021年の米国でのEV販売でテスラは35.2万台、53%のシェアをもっています。2位のトヨタが5.5万台でシェア8%ですから、ダントツと言っていいでしょう。
法律による恩恵は米国内での組み立てでないと適用されないとの推測もありますが、同社が米国で販売する車の大部分はカリフォルニアのフリーモント工場で製造されているとみられます。
また、同社は今年テキサス州でオースティン工場を立ち上げたところで、2023年中に年間50万台の生産体制にもっていく計画です。気候変動対策による恩恵を大きく受けるポジションを築いていると言えるでしょう。
〇クリーンエネルギーのETF
環境関連の銘柄には小ぶりの会社が多く投資リスクは高めと考えられるため、多数の銘柄に分散投資するETFの利用価値が高いと考えられます。
日本の金融機関が取り扱う、米国上場の環境関連ETFには、ブラックロックの(1) iシェアーズ Globalクリーンエナジー ETF(ICLN)とインベスコの(2)インベ グローバルクリーンエネルギー ETF(PBD)があります。
いずれもグローバルに環境関連銘柄に投資するファンドですが、米国株の組入比率は(1)が47%、(2)が36%ですので(9月2日時点)、「歳出・歳入法」に着目して買うには(1)がより適していると考えられます。
iシェアーズ Globalクリーンエナジー ETFは、2020年に環境重視のバイデン氏が大統領に当選したことで物色が盛り上がったものの、その後は人気が離散していました。一方、「歳出・歳入法」成立の可能性が高まった7月末頃から上昇して、一時年初来高値を更新しました。
さらに、再生可能エネルギーが市場で注目を集め、同ETFが組成された2008年まで遡ってみると、2019年まで10年以上鳴かず飛ばずの時期がありました。太陽光パネルの生産には中国企業が大挙して参入したことで価格が低下、風力発電では政府による補助金が削減されたことことなどが主因です。
このように相場が枯れ切っていたために、2020年にバイデン大統領の誕生を受けた物色は枯れ木が燃え上がるように大幅な上昇になったとみられます。
なお、同ETFの投資指標をみると、実績PER(過去12か月のEPSベース)は36.1倍と高めとなっています。組入上位銘柄のPERが高いためです。株価の変動性が大きい点には注意が必要でしょう。
〇クリーンエネルギーETFの上位組入銘柄
また、クリーンエネルギーのETFは、環境関連の銘柄を探すときに手がかりとして利用できます。図表5は同ETFの米国株の組入銘柄を組入比率の大きいほうから10銘柄抽出したものです。
これを見ると、太陽光発電関連の銘柄が多いことがわかります。しかも、太陽光パネルを生産している会社は少なく、組入上位30銘柄(米国銘柄以外も含む)で、6位の米国ファースト ソーラー(FSLR)、26位の中国のジンコソーラー ADR(JKS)のみとなっています。太陽光パネルは価格の下落が続き、業績が悪化した企業が多かった結果と考えられます。
一方、太陽光パネルと補完財(※)の関係にある関連機器やサービスは、太陽光パネルの価格下落によって需要が拡大するため、この関係の銘柄が多くなっていると考えられます。インバータや地上システム、パネルの設置サービスなどがこれに相当します。
図表5の上位銘柄から、次節でご紹介いたします。
※補完財とは、相互に補完して効用を得る財の関係のことで、交差価格弾力性が負の値をとる2つの財の関係を指します。例えば、パンの価格が下がると、パンと補完財の関係にあるバターの需要が増えるといったことです。
図表4 iシェアーズ Globalクリーンエナジー ETF(ICLN)の株価チャート
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5 iシェアーズ Globalクリーンエナジー ETF(ICLN)の組入上位銘柄(米国銘柄のみ抽出)
銘柄名 | 組入比率 (%) |
時価総額 (億ドル) |
事業内容 | 売上 (百万ドル) |
純利益 (百万ドル) |
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エンフェーズ エナジー(ENPH) | 10.0 | 378 | マイクロインバータ。 | 1,382 | 145 |
ソーラーエッジ テクノロジー(SEDG) | 6.2 | 149 | インバータ最大手。 | 1,964 | 169 |
プラグ パワー(PLUG) | 5.7 | 150 | 水素燃料電池システム。 | 502 | -460 |
コンソリデーテッド エジソン(ED) | 5.5 | 349 | 電力会社。太陽光発電能力大。 | 13,676 | 1,346 |
ファースト ソーラー(FSLR) | 5.3 | 135 | 太陽光発電パネル。 | 2,923 | 469 |
サンラン(RUN) | 2.8 | 67 | 住宅用太陽光発電システムの設置。 | 1,610 | -79 |
ブルーム エナジー コーポレーション A(BE) | 1.6 | 46 | 固体酸化物燃料電池。 | 972 | -164 |
オーマットテクノロジーズ(ORA) | 1.3 | 52 | 地熱と回収エネルギーの発電事業。 | 663 | 62 |
ショールズ テクノロジーズ(SHLS) | 1.2 | 42 | 太陽光発電の電気バランスシステム。 | 213 | 2 |
アレイ テクノロジーズ(ARRY) | 1.1 | 30 | 太陽光発電の地上設置システム。 | 853 | -50 |
- 注:9月2日時点のデータによります。売上と純利益は直近の通期実績値です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
テスラ(TSLA) | 時価総額: 8,599億ドル | ||||
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決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
21.12 | 53,823 | 71% | 5,471.3 | 599% | 1.62 |
22.12予 | 85,240 | 58% | 14,328.6 | 162% | 4.14 |
23.12予 | 119,803 | 41% | 20,482.6 | 43% | 5.80 |
株価(9/2): 270.21ドル | 予想PER(22.12期): 65.3倍 | ||||
・ 「歳出・歳入法」によって、これまであったメーカー当たり20万台の控除の上限が2023年1月から撤廃されます。このため、EVの生産台数が大きいテスラがエコカー控除の恩恵が大きくなります。また、同社は太陽光発電関連の事業を保有しており、同事業も恩恵を受けます。世界でEVシフトが本格化しつつある中、米中欧の3極生産体制が軌道に乗っていることから、業績拡大の継続が期待されます。
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エンフェーズ エナジー(ENPH) | 時価総額: 397億ドル | ||||
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決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
21.12 | 1,382 | 78% | 194.1 | 26% | 1.36 |
22.12予 | 2,254 | 63% | 574.5 | 196% | 4.05 |
23.12予 | 3,017 | 34% | 711.2 | 24% | 4.96 |
株価(9/2): 279.07ドル | 予想PER(22.12期): 68.9倍 | ||||
・iシェアーズ Globalクリーンエナジー ETF(ICLN)の組み入れトップ銘柄です(10.0%、9月2日)。原油価格の上昇やロシアからの調達減少懸念から太陽光発電の需要が拡大しており、その恩恵を受けています。4-6月期売上は前年同期比68%増で、1-3月期比でも同20%増と伸びが加速しています。米国市場、海外市場とも市場予想を上回る売上を記録しました。
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ソーラーエッジ テクノロジー(SEDG) | 時価総額: 155億ドル | ||||
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決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
21.12 | 1,964 | 35% | 150.8 | 7% | 2.73 |
22.12予 | 3,073 | 56% | 322.7 | 114% | 5.54 |
23.12予 | 3,912 | 27% | 511.6 | 59% | 9.12 |
株価(9/2): 267.12ドル | 予想PER(22.12期): 48.2倍 | ||||
【太陽光発電向けインバータの最大手】
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コンソリデーテッド エジソン(ED) | 時価総額: 357億ドル | ||||
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決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
21.12 | 13,676 | 12% | 1,528.0 | 9% | 4.37 |
22.12予 | 14,168 | 4% | 1,613.5 | 6% | 4.51 |
23.12予 | 14,642 | 3% | 1,764.6 | 9% | 4.81 |
株価(9/2): 98.48ドル | 予想PER(22.12期): 21.8倍 | ||||
【米国最大級の太陽光発電能力をもつ電力】
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ファースト ソーラー(FSLR) | 時価総額: 136億ドル | ||||
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決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
21.12 | 2,923 | 8% | 377.8 | -16% | 3.53 |
22.12予 | 2,596 | -11% | -32.5 | 赤字転換 | -0.23 |
23.12予 | 3,263 | 26% | 227.3 | 黒字転換 | 2.23 |
株価(9/2): 126.41ドル | 予想PER(22.12期): −倍 | ||||
【米国最大の太陽光パネルの会社】 |
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