中国本土の一部都市が引き続きロックダウンを実施しているなか、香港は日本同様にウィズコロナへシフトしています。香港政府は、8/12から入境者の隔離期間を「7日間」から「3日間」に短縮し、足元では強制隔離を11月前に廃止する方向で動いています。隔離措置の緩和あるいは廃止は、「インバウンド関連銘柄」に大きな恩恵を与えると予想されます。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(9/13) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
キャセイ航空(00293) | 8.52香港ドル | 8.98香港ドル | 6.11香港ドル |
トリップドットコムADR(TCOM) | 25.45米ドル | 33.27米ドル | 14.29米ドル |
香港鉄路(00066) | 40.50香港ドル | 44.30香港ドル | 39.00香港ドル |
シャングリラ(00069) | 6.27香港ドル | 7.27香港ドル | 5.39香港ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
中国本土の一部都市が引き続きロックダウンを実施しているなか、香港は日本同様にウィズコロナへシフトしています。
その典型的な出来事が、香港政府が8/12から入境者の隔離期間を「7日間」から「3日間」に短縮したことです。そして9月に入ってから、香港政府は「3日間」の強制隔離を11月前には廃止する方向で動いています。
香港政府が11月を意識したのは、11/4-11/6に7人制のラグビー大会「香港セブンズ」が開催されるためです。「香港セブンズ」は大規模な国際スポーツイベントの一つで、世界でも有名です。新型コロナの影響で2年連続中止となりましたが、香港政府は2022年の開催を認可しました。
香港政府による入境者の増加を促す措置は、他にもあります。たとえば、香港政府はこれまでに海外発香港着の飛行機の客室乗務員(CA)に対し、入境後3日間のホテル待機を求めていましたが、9/10から解除しました。CAに対する強制隔離措置は航空会社の運航能力を制約する要因の一つとなっていました。
したがって、今回の措置は航空会社にとって朗報と言えます。香港航空最大手のキャセイ航空(00293)は今後、運航能力を徐々に増やし、できる限り早くフライトを追加すると表明しました。また、観光産業の回復を見込み、今後 18 -24カ月でさらに4,000 人のスタッフを雇用する予定だと明かしました。
図表2 香港の入境規制措置の緩和をめぐる主な出来事
日付 | 出来事 | 備考 |
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4月1日 | 入境者の隔離期間を従来の「14日間」から「7日間」に短縮した。 | 隔離期間の大幅短縮により、海外から香港への入境がしやすくなる。 |
8月12日 | 入境者の隔離期間を従来の「7日間」から「3日間」に短縮した。 | 隔離期間の大幅短縮により、海外から香港への入境がしやすくなる。 |
9月3日 | 中国本土とマカオからの入境者に対し、従来は入境後4日目と6日目にPCR検査を求めたが、9/3からは入境後2日目に検査を実施することに変更した。 | 水際対策として、中国本土とマカオからの入境者に対してより厳しい措置を取っていたが、海外からの入境者と同様な扱いとなった。中国本土やマカオから香港への入境がしやすくなる。 |
9月10日 | 海外発香港着の飛行機の客室乗務員(CA)に対し、入境後3日間のホテル待機を求めていたが、9/10から解除した。 | 航空会社にとって運航能力を制約する要因の一つなっていたCAに対する強制隔離措置が解除された。 |
9月 | 香港政府は、11/1より前に3日間の強制隔離を廃止する方向で話を進めている。 | 世界でも有名なラグビー大会「香港セブンズ」の開催を意識したもの。「香港セブンズ」は香港にとって重要なインバウンド向けイベントの一つでもある。 |
11/4-11/6 | 「香港セブンズ」(7人制ラグビーの大会)が開催される予定。 |
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成
香港国際空港の入境者(航空旅客数)を確認してみると、直近の2022年7月は40万人です。この水準は、コロナ前の同じ月(2019年7月)の673万人の約6%に過ぎません。一方、2022年に入ってからの動向では、月次ベースで増加傾向にあることが確認できます。たとえば、2022年1月の航空旅客数は7万人しかありませんでしたが、4月は約13万人、5月は17万人、6月は約30万人、7月は40万人に回復しました。
4月以降、回復ペースが速まったのは、香港政府が4/1に入境者の隔離期間を従来の「14日間」から「7日間」に短縮したからです。(1)で確認したように、香港政府は8/12に隔離期間を従来の「7日間」から「3日間」に短縮しました。「3日間」への大幅短縮により、8月以降は航空旅客数がさらに回復する可能性が高いです。
入境者の大幅増加を見込み、香港政府と香港国際空港は9/1に、入国審査に関する大規模な演習を実施しました。今回の演習は、「3日間」の強制隔離の廃止も視野に入れたものと指摘されています。もし、香港政府が11月前に隔離措置を完全に廃止すれば、それ以降は入境者の回復が一段と速いペースで進む可能性があります。
図表3 香港国際空港の航空旅客数と航空機発着回数(含む貨物便)の推移
※Bloombergおよび香港国際空港のデータをもとにSBI証券が作成
香港の隔離措置の緩和あるいは廃止は、入境者の増加によって「インバウンド関連銘柄」に大きな恩恵を与えると予想されます。具体的には、航空会社や旅行会社、鉄道・ホテルの運営会社などです。
たとえば、香港国際空港をホームグラウンドにし、多くの国際線直行便を運航しているキャセイ航空(00293)や、オンライン旅行代理店大手のトリップドットコム(09961)(*)、香港国際空港から市内を結ぶエアポート・エクスプレスを運営する香港鉄路(00066)、香港に拠点を持つホテルチェーンのシャングリラ(00069)などです。
(*香港上場株はSBI証券では取り扱っておりません。米国上場のトリップドットコムADR(TCOM)は取扱銘柄です。)
図表4 主な「インバウンド関連銘柄」
銘柄 | 主な事業内容 | 地域別売上高構成比(2021年) |
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キャセイ航空(00293) | 香港国際空港をホームグラウンドにし、多くの国際線直行便を運航。 | 主な地域別売上高構成比は、香港と中国本土が67%、東南アジアが10%、日本・韓国・台湾が8%。 |
トリップドットコムADR(TCOM) | オンライン旅行代理店大手。 | 地域別売上高構成比は、中国が92%、その他が8%。 |
香港鉄路(00066) | 香港国際空港から市内を結ぶエアポート・エクスプレスや香港の地下鉄を運営、中国本土や海外でも鉄道輸送事業を展開。 | 地域別売上高構成比は、中国本土と海外が53%、香港が45%、その他が2%。 |
シャングリラ(00069) | 香港に拠点を持つホテルチェーン、主にシャングリ・ラ ホテルを運営。 | ホテル事業の主な地域別売上高は中国本土が45%、香港が10%、シンガポールが8%。 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
上記4銘柄の業績動向を確認してみると、いずれも2020年は新型コロナの感染急拡大による打撃で、調整後EPS(1株当たり純利益)がマイナスに転じるか、大幅な下落となりました。ただし、2021年は感染状況が落ち着くにつれ、回復がみられました。2022年および2023年も回復が続くと予想されています。
特にキャセイ航空(00293)とトリップドットコム(09961)は、2023年に大幅な回復が予想されています。今後、香港が(および中国本土も)隔離措置を完全に廃止した場合、調整後EPSは市場予想よりも早い段階でコロナ前の水準に回復する可能性もあります。
図表5 主な「インバウンド関連銘柄」の業績動向(2022年と2023年はBloomberg予想)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。