中国当局が「ゼロコロナ政策」の堅持を表明しているにもかかわらず、中国株は「リオープン観測」で11月に入ってから反発しました。相場の動きからすると、共産党大会が終了した直後(「ブラックマンデー」の暴落がその典型的な例)に比べて、11月に入ってからは「ゼロコロナ政策」堅持に対する警戒よりも、「リオープン」に対する期待の方が強いようです。今回のその真相と見通しを考察していみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(11/08) | 52週高値 | 52週安値 |
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iシェアーズ 中国大型株 ETF(FXI) | 23.94米ドル | 41.80米ドル | 20.87米ドル |
ウィズダムツリー 中国株ニューエコノミーF(CXSE) | 30.61米ドル | 57.15米ドル | 26.31米ドル |
ヴァンエック チャイネクスト ETF(CNXT) | 31.04米ドル | 55.52米ドル | 28.43米ドル |
iS MSCIチャイナ(02801) | 17.42香港ドル | 30.08香港ドル | 15.29香港ドル |
Tracker Fund香港(02800) | 16.67香港ドル | 25.90香港ドル | 14.68香港ドル |
iS CSI300(02846) | 26.90香港ドル | 41.02香港ドル | 25.00香港ドル |
iS FTSE A50(02823) | 12.66香港ドル | 19.87香港ドル | 11.68香港ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
中国当局が「ゼロコロナ政策」の堅持を表明しているにもかかわらず、中国株は「リオープン観測」で11月に入ってから反発しました。
「リオープン」期待を受け、中国の国家衛生健康委員会は11/5に「ゼロコロナ政策」の堅持を改めて表明しました。それを受け、翌取引日の11/7は株価調整が予想されましたが、香港のハンセン指数とハンセンテック指数(香港版ナスダック株指数)は続伸しました。その日の夜(米国取引時間)、米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は反落しましたが、調整幅は限定的でした。
図表2 ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数とハンセンテック指数の推移と主な出来事(10月以来)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
相場の動きからすると、共産党大会が終了した直後(「ブラックマンデー」の暴落がその典型的な例)に比べて、11月に入ってからは「ゼロコロナ政策」堅持に対する警戒よりも、「リオープン」に対する期待の方が強いようです。主な要因は、以下の3つが考えられます。
1)「噂で買って事実で売る」
2)噂の確度が比較的高い
3)バリュエーション面での割安感
1)「噂で買って事実で売る」
相場の格言にある「噂で買って事実で売る」は、いわば好材料の噂が出た段階で買って、事実として公表された段階では売った方が良いという経験測です。つまり、事実となった段階で買うのはもはや遅く、噂が立ち始めた時が底値拾いのチャンスである場合が多いです。
特に中国株にとって、「ゼロコロナ政策」の堅持か解除かは、相場の大きな転換点となり得るため、投資家の反応はさらに敏感になりやすいです。なぜならば、中国の「ゼロコロナ政策」が中国経済の回復遅れ、ひいては株安につながっていると認識されているため、解除となれば中国株の「逆転」が期待されるためです。
市場の一部では、中国の「ゼロコロナ政策」の転換を、米国の金融政策の転換と同等に扱う向きも出始めています。したがって、それに関する噂が立った段階、あるいは何らかの兆候が表れた段階で、買いを入れようとする投資家がいるのも不思議ではありません。
2)噂の確度が比較的高い
「火のない所に煙は立たぬ」ということわざがあるように、人間心理として、「噂」が立つからには何らかの根拠(事実)があるはずだと思われがちです。特に今回の「リオープン観測」をめぐっては、「共産党大会終了後」というタイミングに加え、各方面から関連する事象も出ているため、「噂の確度は比較的高い」と言えそうです。
たとえば、図表2でも示した通り、共産党大会が開催される前の1週間、中国共産党の機関紙である人民日報は連日、論説を発表し、「ゼロコロナ政策」の堅持を主張しました。しかしながら、共産党大会が終了すると、そのような論説はありませんでした。市場で「リオープン観測」が出た後、人民日報は11/4に「コロナ後遺症リスクは大半の人にとって小さい」との記事(論説ほどは強くない)を掲載しました。これは、「ゼロコロナ政策」の解除を示唆するものとは程遠いですが、論調に変化が表れ始めていることは間違いないようです。
それ以外でも、共産党大会が終了した後、中国が「ゼロコロナ政策」の解除に向けて動き出していることが示唆されています(図表3)。
図表3 共産党大会の後、「リオープン」をめぐる動き
日付 | 関連分野 | 詳細 |
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10月26日 | 国際便を2倍に | 中国民用航空局は、10月下旬から3月下旬に中国を発着する国際旅客便は1週間あたり840便(前年同シーズンの約2倍の規模)に達する計画だと発表。 |
11月1日 | 「再開(リオープン)委員会」を設置か | 中国の著名エコノミストが下記の内容でソーシャルメディアに投稿した。「“再開委員会”が設置されたと聞いた。同委員会は、2023年3月の再開を目標に、さまざまな再開シナリオを評価するために米国や香港、シンガポールの新型コロナに関するデータを調べている。」 |
11月4日 | 航空便の運航制限を緩和へ | 中国当局は新型コロナウイルスを国内に持ち込んだとする航空会社を処分する制度(「サーキットブレーカー」制度)を打ち切る方向で作業を進めている。 |
11月4日 | 外国製mRNAワクチンを承認の可能性 | 独ショルツ首相は中国訪問中に、「独ビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチンについて、中国が国内居住の外国人を対象に接種できるようにすると述べた。」また、「習主席はショルツ首相に対し、航空と新型コロナウイルスの防疫でドイツとの協力を深めていく用意があると説明したとCCTV(中国国営テレビ)は伝えた。」 |
11月6日 | マラソン大会が再開 | 新型コロナの感染拡大による影響で2020年から停止となっていた「北京マラソン大会」が3年ぶりに開催された。 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
以上の動きからすると、中国当局が「ゼロコロナ政策」の解除に向けて動き出していることは、「確度が高い」と言えそうです。
3)バリュエーション面での割安感
投資家が「リオープン観測」に強く反応したもう一つの要因は、中国株のバリュエーション(株価水準)の割安感です。上記の1)と2)の要因よりも、3)の要因の方が大きいと考えられます。なぜならば、ここ1-2年の調整を経て、中国株のバリュエーションは既に過去危機時の安値水準に近づきました。
図表4 共産党大会の後、「リオープン」をめぐる動き
注:ハンセンテック指数は2020年7月からの公表開始のため、長期のPERデータがありません。したがって、香港市場のハンセン指数を使用しました。
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成
したがって、悪材料はある程度十分、株価に織り込まれている可能性が高く、ダウンサイド・リスクよりもアップサイドの可能性が意識されやすい局面にあると言えます。「リオープン観測」が相場反転のトリガー(引き金)となるかどうか、現段階では確定できませんが、その可能性は十分あると考えられます。
他方、今は中国当局が「ゼロコロナ政策」の解除に向けて動き出している段階にあり、解除の時期や具体的なスケジュールはまだ不明です。香港のケースからすると、最初に入国規制の緩和が実施されたのは今年4月で、店内飲食の人数制限が大幅に解除されたのは11月となっており、解除までは半年以上かかっています。中国当局はある程度香港の事例を参考している(あるいは香港が「実験台」として先に解除されている可能性もある)と思われるため、中国本土の解除も漸進的な動きとなりそうです。
図表3の出来事のように、これからも「リオープン」に向けた動きが増えれば、相場にとってプラス材料です。一方、解除の時期が大幅にずれ込む(たとえば、来年中は解除しない)場合は、ネガティブ材料として意識されそうです。
なお、「リオープン」以外で、相場反転のトリガーとなり得るのは、景気刺激策です。「3期目の習政権」が正式に発足したことで、中国当局はこれから政策の策定(政治より経済政策の策定)に着手していくと思われます。足元の経済情勢を考えると、中国当局は何らかの景気支援策を打ち出す可能性があります。短期的には、12月に開催される中央政治局会議と中央経済工作会議に注目です。
図表5 主要中国株ETF
銘柄名 | 連動する指数 | 組入銘柄の上場先 | 組入上位銘柄 |
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iS MSCIチャイナ(02801) | MSCI中国指数 | 香港、中国本土、米国 | テンセント(00700)、アリババ(09988)、美団(03690)、中国建設銀行(00939)、JDドットコム(09618) |
ウィズダムツリー 中国株ニューエコノミーF(CXSE) | ウィズダムツリー 中国企業(除く国有企業)指数 | 香港、中国本土、米国 | テンセント(00700)、アリババ(09988)、CATL(300750)、JDドットコム(09618)、中国平安保険(601318) |
Tracker Fund香港(02800) | ハンセン指数 | 香港 | AIA(01299)、HSBC(00005)、テンセント(00700)、美団(03690)、中国建設銀行(00939) |
iシェアーズ 中国大型株 ETF(FXI) | FTSE中国50指数 | 香港 | アリババ(09988)、テンセント(00700)、美団(03690)、JDドットコム(09618)、中国建設銀行(00939) |
iS CSI300(02846) | CSI300(上海・深セン300)指数 | 中国本土 | 貴州茅台酒(600519)、CATL(300750)、中国平安保険(601318)、招商銀行(600036)、隆基緑能科技(601012) |
iS FTSE A50(02823) | FTSE A50中国指数 | 中国本土 | 貴州茅台酒(600519)、CATL(300750)、招商銀行(600036)、宜賓五糧液(000858)、中国長江電力(600900) |
ヴァンエック チャイネクスト ETF(CNXT) | ChiNext指数 | 中国本土(深セン創業板) | CATL(300750)、東方財富(300059)、邁瑞生物医療(300760)、陽光電源(300274)、匯川技術(300124) |
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。