今回は最近52週高値を更新した銘柄群をご紹介いたします。52週高値更新銘柄に注目するのは、ファンダメンタルズの見通しから来年にかけて米国株式市場が持続的に上昇する可能性は低く、もみ合いになる可能性が高いとみているためです。52週高値更新銘柄の中から、現在値が上場来高値に近く、上場来高値更新が期待される銘柄を注目銘柄としてご紹介いたします。
図表1 注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(8/16) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
アルタ ビューティ(ULTA) | 449.88ドル | 461.57ドル | 330.80ドル |
オライリー オートモーティブ(ORLY) | 849.73ドル | 861.50ドル | 562.90ドル |
ペプシコ(PEP) | 182.59ドル | 186.62ドル | 153.37ドル |
ディアー(DE) | 440.97ドル | 448.40ドル | 283.81ドル |
オートマチック データ プロセシング(ADP) | 257.06ドル | 264.94ドル | 192.26ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は最近52週高値を更新した銘柄群を取り上げます。市場平均のS&P500指数は、2022年1月4日に付けた52週高値4,818.62ポイントに対して17.9%下落した水準にありますので、相対的に株価が堅調に推移している銘柄群です。
〇52週高値更新銘柄に注目する理由
52週高値更新銘柄を取り上げるのは、来年は米国株式市場が持続的に上昇する可能性が低いとみているためです。
来年初にかけては、インフレピークアウト、FRBによる利上げ幅の縮小を織り込んでPERが回復して上昇基調を想定しています。一方、その先の半年程度を見渡すと、経済成長の鈍化、企業業績の下方修正が続くことが想定されます。一旦、PERの回復による株価回復が実現すると、EPSの下方修正リスクによって、相場の持続的な上昇は難しいのではないかと考えています。
このため年初から足もとまでの非常に不安定な相場環境の中でも高値を更新している銘柄に注目できると考えます。筆者が想定している来年初にかけての相場上昇局面でも上昇が期待でき、さらにその先のもみ合い局面でもじり高となる可能性があるとみています。
〇米国の実質GDP見通し
米国経済については、いまのところ浅い景気後退が想定されており、図表2で市場コンセンサスを確認すると、前期比では、23年1Q 、2Qにマイナス成長、前年比では23年3Qに0.1%まで低下する予想です。23年年間では、前年比0.4%増まで成長率が低下すると予想されています。
SBI証券のチーフ・エコノミスト松岡氏は、FRBの政策金利引き上げについて、「金融政策が対応できない供給ショックに利上げで対処した」「景気の遅行指標であるインフレ率に焦点を当てた金融引き締めを実施した」ことを理由に、「実態経済のオーバーキルは実現するだろう」と指摘しています。
深いリセッションは回避されるとみられますが、市場予想はどちらかというと下方修正の可能性のほうが高そうです。
〇S&P500指数の予想EPS
S&P500指数の予想EPSは、2022年、2023年とも下方修正基調となっています(図表3)。4-6月期決算が発表された7月に下方修正に転換、7-9月期決算が発表された10月から下方修正のピッチがあがっています。
ドル高進行による海外事業の売上・EPSの目減り、原材料・人件費高によるマージン圧迫などが主な要因とみられます。これまでのところ、景気鈍化による売上減速は、ネット広告の分野などで顕著になっているほかは、さほど目立っていませんが、上記のGDPの見通しを前提とすると、これから顕在化する可能性が高そうです。
いまのところ、2022年予想の221ポイントから2023年予想の235ポイントへ6%の増益が見込まれていますが、GDPの成長率見通しとの比較では、まだ伸び率は高すぎる可能性がありそうです。
以上の通り、GDP、EPSとも下方修正されるリスクが意識されるため、米国株式相場の持続的上昇は見込みづらいと言えそうです。
図表2 米国の実質GDP成長率は来年にかけて低下へ
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成
図表3 企業業績の予想は下方修正が続いている
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成
S&P500指数の採用銘柄について、11/21(月)〜11/28(月)に52週高値を更新したことのほか、以下のような条件でスクリーニングを行い、図表4の19銘柄を抽出しました。
【スクリーニング条件】
1. 11/21(月)〜11/28(月)に52週高値を更新した
2. 今期予想EPSの修正(4週)が-3%以上
3. 来期EPSが増加予想
4. 時価総額が200億ドル以上
抽出された銘柄をざっと見渡しますと、事業にディフェンシブ性のある銘柄が多く入っている印象です。株式市場では、先行きの景気減速が意識されていますので、そのような環境でも利益を伸ばすと期待されている銘柄群と考えられます。
業種別のまとまりとして最も多いのは保険関連で、4銘柄がラインクインしています。保険契約は比較的景気動向に左右されず、一方、資産運用面では長期金利の上昇が恩恵となることが株価堅調の要因と考えられます。
典型的なディフェンシブ業種である、食品・飲料関連が3銘柄、医薬品・バイオテクノロジーが2銘柄ランクインしています。ディフェンシブ銘柄なら何でもという訳でなく、やはり個別に成長要因をもっている銘柄が抽出されているとみられます。
小売りでは自動車用品の販売チェーンが2銘柄とも入っており、業界として安定成長を遂げて株価も好調のようです。また、ジェニュインパーツは小売りではありませんが、自動車部品の流通が主力という点で共通しています。
このほか、インフレ環境下で消費者のダウントレード(同種の安いものにシフトする)の動きが恩恵となるアパレルのディスカウンター(ロス ストアーズ)、経済再開から恩恵を受けている化粧品販売チェーン(アルタビューティ)も入っています。
IT関係では、昨年末に事業の再編を行って売上の伸びを拡大しつつあるIBM、人事関連業務量の拡大から恩恵を受けるオートマチックデータプロセシングが入っています。
産業ガス大手のエアープロダクツアンドケミカルズは、製造業の生産過程で使用される消耗品を提供するため事業にはディフェンシブ性があります。農業機械大手のディアーは、農業サイクルが事業にとって順境にあるようです。
クアンタサービシズは、電力、通信、パイプラインなどインフラネットワークの特殊工事を請け負う会社です。売上に占める経常収入の比率を8割超に引き上げ、業績の変動性を抑えたことが評価されているようです。
図表4に抽出した銘柄から、株価が52週高値を更新するだけでなく、上場来高値も更新しつつある(現在値が上場来高値の近くにある)5銘柄を選んで、次節でご紹介いたします。
図表4 最近52週高値を更新した銘柄群(S&P500指数採用銘柄が対象)
コード | 銘柄名 | 業種 | 52週高値 更新日 |
上場来 高値 (ドル) |
株価 (11/28) (ドル) |
上場来 高値乖離 (%) |
予想EPS 修正率 (4週) (%) |
来期 予想EPS 増加率 (%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
MRK | メルク | 医薬品 | 11/28 | 108.89 | 108.45 | -0.4 | -0.5 | 1.3 |
AZO | オートゾーン | 自動車小売り | 11/28 | 2567.91 | 2545.98 | -0.9 | -0.6 | 15.3 |
ULTA | アルタ・ビューティ | 専門店 | 11/28 | 461.57 | 457.24 | -0.9 | -0.1 | 6.8 |
ORLY | オライリー・オートモーティブ | 自動車小売り | 11/28 | 861.05 | 852.56 | -1.0 | 0.3 | 12.6 |
GIS | ゼネラル・ミルズ | 包装食品・肉 | 11/28 | 83.79 | 82.93 | -1.0 | 0.1 | 5.7 |
PEP | ペプシコ | 清涼飲料 | 11/22 | 186.57 | 183.89 | -1.4 | 0.1 | 7.6 |
GPC | ジェニュイン・パーツ | 販売 | 11/25 | 186.10 | 183.23 | -1.5 | 0.0 | 5.5 |
AJG | アーサー・J・ギャラガー | 保険ブローカー | 11/25 | 199.55 | 196.43 | -1.6 | -0.6 | 12.3 |
DE | ディア | 農業機械 | 11/23 | 448.31 | 441.21 | -1.6 | 2.6 | 6.3 |
TRV | トラベラーズ | 損害保険 | 11/25 | 189.40 | 186.32 | -1.6 | -1.7 | 12.9 |
AFL | アフラック | 生命保険・健康保険 | 11/25 | 72.70 | 70.99 | -2.4 | -0.6 | 3.6 |
MNST | モンスター・ビバレッジ | 清涼飲料 | 11/28 | 104.45 | 101.88 | -2.5 | -0.5 | 30.8 |
ADP | オートマチック・データ・プロセシング | 情報処理・外注サービス | 11/25 | 264.86 | 258.33 | -2.5 | 0.1 | 11.2 |
VRTX | バーテックス・ファーマシューティカルズ | バイオテクノロジー | 11/23 | 323.48 | 315.30 | -2.5 | 0.2 | 8.5 |
PWR | クアンタ・サービシーズ | 建設・土木 | 11/22 | 151.69 | 143.56 | -5.4 | 2.5 | 10.1 |
APD | エアープロダクツ・アンド・ケミカルズ | 工業用ガス | 11/25 | 327.45 | 304.46 | -7.0 | -0.3 | 9.8 |
ROST | ロス・ストアーズ | 衣料小売り | 11/23 | 134.16 | 116.37 | -13.3 | 6.8 | 17.3 |
IBM | IBM | 情報技術コンサルティング | 11/23 | 206.22 | 146.18 | -29.1 | -1.3 | 6.1 |
HIG | ハートフォード・ファイナンシャル・サービシズ | 総合保険 | 11/25 | 106.23 | 75.06 | -29.3 | -0.2 | 17.6 |
- 注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
アルタ ビューティ(ULTA) | 時価総額: 234億ドル | ||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
22.1 | 8,631 | 40% | 990.1 | 265% | 18.06 |
23.1予 | 9,774 | 13% | 1,108.4 | 12% | 21.65 |
24.1予 | 10,423 | 7% | 1,155.2 | 4% | 23.12 |
株価(11/28): 457.24ドル | 予想PER(24.1期): 19.8倍 | ||||
【経済再開の恩恵を受ける】 |
オライリー オートモーティブ(ORLY) | 時価総額: 533億ドル | ||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
21.12 | 13,328 | 15% | 2,164.7 | 24% | 31.10 |
22.12予 | 14,258 | 7% | 2,124.6 | -2% | 32.73 |
23.12予 | 15,054 | 6% | 2,271.6 | 7% | 36.86 |
株価(11/28): 852.56ドル | 予想PER(23.12期): 23.1倍 | ||||
【業界全体が安定成長を遂げる】
|
ペプシコ(PEP) | 時価総額: 2,533億ドル | ||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
21.12 | 79,474 | 13% | 8,688.0 | 13% | 6.26 |
22.12予 | 85,266 | 7% | 9,403.2 | 8% | 6.78 |
23.12予 | 88,272 | 4% | 10,053.9 | 7% | 7.30 |
株価(11/28): 183.89ドル | 予想PER(23.12期): 25.2倍 | ||||
【株主還元に強くコミットする】
|
ディアー(DE) | 時価総額: 1,332億ドル | ||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
22.10 | 52,577 | 19% | 7,025.1 | 18% | 22.93 |
23.10予 | 52,741 | 0% | 8,165.5 | 16% | 27.19 |
24.10予 | 55,159 | 5% | 8,497.7 | 4% | 28.90 |
株価(11/28): 441.21ドル | 予想PER(23.10期): 16.2倍 | ||||
【農業サイクルが良好】
|
オートマチック データ プロセシング(ADP) | 時価総額: 1,072億ドル | ||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
22.6 | 16,498 | 10% | 2,967.3 | 15% | 7.04 |
23.6予 | 17,920 | 9% | 3,368.5 | 14% | 8.12 |
24.6予 | 19,214 | 7% | 3,706.3 | 10% | 9.03 |
株価(11/28): 258.33ドル | 予想PER(23.6期): 31.8倍 | ||||
【人事関連業務の複雑化を背景に成長】 |
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