米国の銀行株は地方銀行3行が破綻したことを受けて大幅に下落した一方、4/14(金)に発表されたJPモルガンチェースの1-3月期決算は市場予想を上回って好調だったことから注目を集めています。そこで、今回は銀行セクターの決算を中心にご報告いたします。
図表1 注目銘柄
銘柄 | 株価(4/18) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
バンガード 米国金融セクター ETF(VFH) | 80.35米ドル | 93.35米ドル | 72.96米ドル |
金融セレクト セクター SPDR ファンド(XLF) | 33.36米ドル | 38.32米ドル | 29.59米ドル |
JPモルガン チェース(JPM) | 141.40米ドル | 144.34米ドル | 101.28米ドル |
バンク オブ アメリカ(BAC) | 30.56米ドル | 40.37米ドル | 26.32米ドル |
M&Tバンク(MTB) | 125.73米ドル | 193.42米ドル | 110.00米ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
米国の銀行株は地方銀行3行が破綻したことを受けて大幅に下落した一方、4/14(金)に発表されたJPモルガンチェースの1-3月期決算は市場予想を上回って好調だったことから注目を集めています。そこで、今回は銀行セクターの決算を中心にご報告いたします。
〇銀行破綻で下落した銀行株は投資のチャンス!?
3月に地方銀行3行が破綻したことを受けて、銀行株指数は図表2の通り大幅な下落となっています。その後追加で破綻する銀行が出ていないことから、同株価指数も戻り歩調にありますが、年初来ではS&P500指数が8.2%の上昇となっているのに対して、16.4%の下落と大幅なアンダーパフォームで、投資のチャンスとみる向きもあるようです。
その根拠となっているのが、破綻したシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクは特殊なケースであったという見方です。預金保険で保護される25万ドル以下の預金が全預金額に占める割合がそれぞれ、一桁台前半と一桁台半ばで極端に低くなっていました。
幅広い産業に融資を行い、社会の幅広い層から預金を集めている、一般的な銀行には破綻の連鎖は及ばない可能性が高く、今回の金融不安が2008年リーマンショックのような金融危機に深刻化する可能性は低いとみられています。実際、米国上場で地方銀行を組み入れたETFには大量の資金が流入しています。
さらに、4/14(金)のJPモルガンチェースの決算が良好だったことから、銀行株への関心がさらに高まっています。多くの銀行では預金の流出が続いているため、いましばらく動向を注視していく必要がありますが、大きく下落した銀行株は投資のチャンスとなっている可能性もありそうです。
なお、ここに書いた内容は、4/5(水)の外国株式特集レポート「大幅に下落した米銀株は「10年に1度」の買いチャンスなのか!?」に詳しいので、ご参照ください。
〇「金融」は業績モメンタム改善でも注目できる
S&P500指数の「金融」セクターは、上述のように株価が調整したというだけでなく、実は1-3月期の業績モメンタム改善が見込まれる面からも注目できます。
図表3の通り、2022年10-12月期から2023年1-3月期にかけて「金融」セクターの前年同期比伸び率は、売上、EPSとも大幅な改善となる予想です。市場全体の動向を示すS&P500指数の売上、EPSの伸び率は低下が見込まれているのと対照的です。「金融」セクターの1-3月期の売上の伸び率は全11セクターのトップ、EPSの伸び率は同4位の高さとなっています(4/14(金)時点のFactSet社集計によります)。
「金融」セクターの改善は、銀行の業績改善がけん引しています。過去1年で長期金利が上昇したために貸出利ざやが広がって、純金利収入が大幅に増加していることに加え、パンデミック時に資本市場が盛り上がった反動で低下基調にあった非金利収入も1-3月期は伸びが改善する見通しとなっていることが背景です。
そこで、第2節では4/14(金)に始まった大手銀行の決算動向、第3節では地方銀行の決算動向を確認して、銀行に対する投資について検討してみます。
図表2 S&P500指数とKBW銀行株指数

注:最後のデータは4/18(火)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3 「金融」は業績モメンタム改善でも注目できる

※4/14(金)時点のFactSet社公表データをもとにSBI証券が作成
大手銀行の決算動向について概要を確認したうえで、代表例としてJPモルガンチェースの決算内容について詳しくみてみます。なお、米国で大手銀行というと投資銀行が中心のゴールドマンサックスとモルガンスタンレーも含みますが、ここでは商業銀行の比重が高い4行に集中してみています。
〇大手銀行の1-3月期決算概要
4/18(火)までに1-3月期決算を発表した米国の大手銀行の決算概要を図表4にまとめています。
前年同期との比較では全社が増収で、EPSはシティグループ以外が増益、市場予想との比較では、いずれも売上・EPSとも予想を上回って、好調な決算だったと言えるでしょう。
地方銀行破綻の影響として市場で注目された預金の増減については、JPモルガンチェースを除いて2022年末比で減少となっています。FRB(米連邦準備制度理事会)が発表している銀行全体の統計で既に報じられているよう、預金の流出が起こっていることが確認できます。銀行の中では信用力の高い銀行に預金が流れやすく、JPモルガンチェースが増加となっているのは、そういうことだと考えられます。
また、貸出金はバンクオブアメリカを除く3行で減少しています。銀行破綻を受けて銀行の貸し出し態度が厳しくなっていることが想定されていましたが、それが確認された形です。さほど大きな動きにはなっていませんが、今後の景気に与える影響は注視していく必要がありそうです。
〇JPモルガンチェース(JPM)の決算
JPモルガンチェースの1-3月期は好調でした。営業収益は前年同期比25%増、EPSは同56%増で、それぞれ市場予想を7%、21%上回りました。
純金利収入は金利上昇を背景とした純貸出利ざやの拡大によって前年同期比49%増となり、市場予想も8%上回りました。非金利収入も同5%増でした。注目された預金額は2022年末から1.6%増加して、業界の中で信用力が特に高い銀行とみられているようです。貸出額は同0.6%減少しています。
部門別の純利益は、コンシューマー&コミュニティバンキングが同80%増、コーポレート&インベストメントバンクが同1%増、コマーシャルバンクが同58%でした。金利収入が非常に好調、手数料数入はさほどでもないことが反映されています。
ダイモンCEOは米国の経済状況と最近の銀行破綻について、以下のように述べています。
「米国経済は全般的に健全な足場のうえにある、つまり、消費者は依然として支出を続け、健全なバランスシートを維持し、企業の状態も良好だ。 しかし、私たちが過去 1 年監視してきた嵐の雲は引き続き地平線上にあり、銀行業界の混乱がリスクを高めている。」
「銀行業界の状況は2008 年とは異なる。というのは、その混乱に含まれる金融事業者ははるかに少なく、解決が必要な問題もはるかに少ない。しかし、銀行がより保守的になることで金融環境は引き締まる可能性が高く、これが消費支出を減速させるかどうかみていく必要がある。」
銀行破綻による経済への影響は注視していく必要があるが、深刻な金融不安に陥る可能性は低いということでしょう。
利益増をけん引している純金利収入については、図表6の通り純貸出利りざやが過去比べて高い水準まで回復しているため、今後伸び率は低下していく見通しです。ただ、銀行破綻によって過度の懸念で下がった株価には一定の戻りが期待できると考えられます。
図表4 大手銀行の1-3月期決算概要
銘柄名(コード) | 営業収益 増加率 (前年同期比) (%) | EPS 増加率 (前年同期比) (%) | 営業収益 予想比 (%) | EPS 予想比 (%) | 預金の 増減率 (前期末比) (%) | 貸出金の 増減率 (前期末比) (%) |
---|---|---|---|---|---|---|
JPモルガン チェース(JPM) | 24.52 | 55.89 | 6.82 | 21.3 | 1.6 | -0.6 |
バンク オブ アメリカ(BAC) | 13.1 | 17.5 | 4.2 | 14.9 | -1.0 | 0.1 |
ウェルズ ファーゴ(WFC) | 17.8 | 39.8 | 3.5 | 9.0 | -1.5 | -0.9 |
シティグループ(C) | 11.8 | -7.9 | 7.6 | 12.9 | -2.6 | -0.6 |
※BloombergデータをもとにSBII証券が作成
図表5 JPモルガンチェースの純金利収入と非金利収入

※BloombergデータをもとにSBII証券が作成
図表6 JPモルガンチェースの純貸出利ざや

※BloombergデータをもとにSBII証券が作成
S&P500指数には地方銀行が7行採用されていますが、図表7の通り決算発表はM&Tバンクが4/17(月)であるほかは4/19(水)以降となっていますので、M&Tバンクの決算の状況をご報告いたします。
地方銀行については、預金の流出が続いている、預金金利の引き上げ圧力がある、規制強化が見込まれるなど、中期的には業績向上に逆風が強まっています。一方、足もとの業績堅調が確認されれば、一部銀行の破綻を受けた過度の懸念が後退することにより、株価の戻りが期待できそうです。
〇M&Tバンク(MTB)の決算の状況
・1-3月期決算は営業収入が前年同期比66%増、EPSが同53%増で、ほぼ市場予想並みの結果でした。長期金利の上昇を受けて純貸出利ざやが2.65%から4.04%に拡大、純金利収入は同2倍に伸びて業績をけん引しました。預金額については2022年末比2.7%減少して、大手銀行よりも減少率が大きくなっています。一方、貸出額は同1.0%増でした。
・Bloombergの銀行アナリストは同決算について、「保守的な貸借対照表と顧客関係の強さによって、金融不安を切り抜けることができそうだ。」と評価しています。25万ドル以下の預金が全預金額に占める割合は40%台後半と高く、預金流出のリスクは相対的に低いと考えられます。決算発表を受けた4/17(月)の株価は7.8%上昇しました。
・同行はニューヨーク州バッファロー地盤の金融持ち株会社で、傘下のM&T銀行はSBAローンに強みをもち、子会社で保険や証券なども展開します。2022年4月に北東部地盤のピープル・ユナイテッド・ファイナンシャル買収完了で営業エリアは12州と特別区に拡大しました。ニューヨーク州に隣接するニューイングランド地域への展開は、営業効率の向上と費用削減による収益性の向上につながると期待されています。
図表7 S&P500指数に採用されている地方銀行銘柄の投資指標
コード | 名称 | 決算発表予定日 | S&P 発行体 格付け | 時価総額 (億ドル) | "総資産 (億ドル)" | "実績 ROA (%)" | "株価騰落 (年初来) (%)" | 主な営業地域 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
TFC | トゥルイスト・ファイナンシャル | 4月20日 | A- | 450 | 5,553 | 1.14 | -21.3 | 南東部、中部大西洋岸 |
MTB | M&Tバンク | 4月17日 | BBB+ | 209 | 2,007 | 1.32 | -13.3 | 北東部 |
RF | リージョンズ・ファイナンシャル | 4月21日 | BBB+ | 175 | 1,552 | 1.41 | -13.3 | 中西部、南部 |
HBAN | ハンチントン・バンクシェアーズ(オハイオ州) | 4月19日 | BBB+ | 168 | 1,829 | 1.25 | -17.7 | 中西部 |
CFG | シチズンズ・フィナンシャル・グループ | 4月19日 | BBB+ | 147 | 2,267 | 1.00 | -22.7 | 東海岸 |
ZION | ZBナショナル・アソシエーション | 4月19日 | BBB+ | 45 | 895 | 0.99 | -38.0 | 西部、南西部 |
FRC | ファースト・リパブリック・バンク | 4月24日 | B+ *- | 23 | 2,126 | 0.85 | -89.7 | カリフォルニア州 |
注:データは4/18(火)時点です。
※BloombergデータをもとにSBII証券が作成