生成AIブームが続いている米国市場では、足元で「生成AIバブル」を警戒する声が出始めています。今回は、その背景要因と動向を確認したうえ、「ナスダック100」VS「ラッセル2000」を取り上げたいと思います。
図表1 主な言及銘柄 (Bloomberg銘柄名)
銘柄 | 株価(6/6) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
iシェアーズ ラッセル 2000 ETF(IWM) | 184.31ドル | 201.99ドル | 162.50ドル |
iシェアーズ・コア S&P 小型株 ETF(IJR) | 97.77ドル | 108.24ドル | 86.40ドル |
バンガード スモールキャップ ETF(VB) | 193.19ドル | 210.00ドル | 168.65ドル |
インベスコ QQQ トラスト シリーズ1 ETF(QQQ) | 354.84ドル | 357.50ドル | 254.26ドル |
エヌビディア(NVDA) | 386.54ドル | 419.38ドル | 108.13ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
生成AIブームによる株高が続き、その代表銘柄であるエヌビディア(NVDA)の株価が急騰していることを受け、市場では「生成AIバブル」と指摘する声が出てきています。
エヌビディアの株価推移を確認してみると(図表2)、年初から株高が続き、決算発表の翌日(5/25)は24%急騰しました。その後、5/30には400ドルの大台に乗せ、終値ベースで史上最高値を更新しました。翌5/31は月末だったこともあり、ポジション調整や利益確定売りにより下落しました。一部のアナリストが過熱感を指摘したことも影響したかもしれません。足元では、売り買いが交錯し、380-390ドルで推移しています。
図表2 エヌビディア(NVDA)の株価推移(過去3年)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
5月末のエヌビディアの株価急騰を支えたのは、ひと言でいうと、「目を見張るほど素晴らしい」好決算です。5/24に発表された決算では、2024年1月期2Q(5月-7月期)の売上高ガイダンス(中央値)が前年同期比で64%増、1Q(2-4月期)比で53%増となり、市場予想を5割以上も上振れました。大幅増収が見込まれる要因について経営陣は、生成AI関連製品の好調な需要とそれに応えられる供給体制を挙げました。
通常、米国市場では市場予想を5割も上回るガイダンスは、50人を超えるアナリストがカバーしている大型株ではかなり珍しいことです。まして米国経済をはじめ世界経済の見通しが冴えないなか、大手ハイテク企業の決算が総じて市場予想を上回ったとしても小幅にとどまっていたため、エヌビディアの好決算は際立ちました。経営陣が先行きについても強気の見通しを示したため、アナリストたちはエヌビディアの業績予想と目標株価を大幅に上方修正しました。
好調な業績見通しが株高を支えていると言えますが、それなのになぜ「生成AIブーム」を「生成AIバブル」と警戒する声が出ているのでしょうか。背景要因は、主に以下の3つが挙げられます。
1)急ピッチな株高
図表2からも分かるように、エヌビディアの株価上昇はかなり急ピッチでした。昨年末は株価が146.14ドルでしたが、今年に入り生成AIブームで上昇が続き、5/30は終値ベースで史上最高値の401.11ドルを付けました。つまり、エヌビディアの株価は年初から5/30まで2.7倍になりました。
2)バリュエーション面での懸念
急ピッチな株高により、エヌビディアのバリュエーションも大きく上昇しました。たとえば、予想PER(株価収益率=株価/1株当り利益)と予想PSR(株価売上高倍率=株価/1株当り売上高)は、いずれも5月中旬(決算発表前)に過去最高水準となりました(図表3)。
ただし、5/24の決算発表後、アナリストたちが予想EPSを大幅に上方修正したことを受け、予想PERは急低下しました。6/6時点では50.3倍となり、昨年11月時点の高値(58.4倍)と決算発表前の過去最高値(69.1倍)を下回っています。過去最高値と前回の高値は下回っているものの、一部のアナリストは過去平均と比べると「比較的高水準」にあると指摘しています。また、予想PSR水準からは「割高領域にある」との指摘もあります(図表3)。
図表3 エヌビディア(NVDA)のバリュエーション(過去3年)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
予想PERだけでなく、予想PSRも確認しようとしている動きは、いわば一部アナリストの慎重スタンスを反映しています。上昇が急ピッチすぎたことに加え、米金融政策の不透明感も影響していると考えられます。
3)米早期利下げ期待をめぐる不透明感
エヌビディアを筆頭とするハイテク株が買われてきたのは、生成AIブームに加え、米国の早期利上げ停止および利下げに対する期待も一因になっています。ハイテク株の価値は、将来の利益成長が重要ですが、その利益を現在価値に割り引く際の割引率も重要になってきます。その割引率は通常、金利上昇とともに高くなるため、ハイテク株は特に金利動向に敏感なセクターと言えます。
なお、金利水準に対する市場の見通しは、債券市場が織り込む利上げ確率で確認できます。たとえば、米地方銀行のシリコンバレー銀行(略称、SVB)が破綻した後、早期利上げ停止および利下げに対する期待が高まりました。その間、エヌビディアを筆頭とするハイテク株は上昇基調が続きました。
ただ、足元では、利上げ停止および利下げに対する期待がやや後退しています。債券市場が織り込んでいる利上げの見通しを確認してみると、6月の利上げ確率は低下しているものの、7月の利上げ確率は上昇しています。インフレの高止まりと底堅い雇用統計を背景に、FRB(米連邦準備制度理事会)は6月に一旦利上げを停止するものの、7月は利上げを再開する可能性が織り込まれつつあります。また、今後の経済データ次第ではFRBが金利を高水準に保つ(利下げが先延ばしになる)可能性もあると警戒されています。
図表4 6月と7月の利上げ確率、およびエヌビディア(NVDA)とナスダック100指数の推移(年初来)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
したがって、FRBが金融政策を決める6/13-6/14のFOMC(米連邦公開市場委員会)を控え、当面は積極的な売買は手控えられる可能性がありそうです。エヌビディアについては、重要な決算イベントが通過し、決算発表後(5/29)にAI新製品も発表したことを考えると、会社側からのニュースフローはしばらく限られる可能性があります。生成AI関連でほかにポジィティブ材料が出ない限り、急ピッチで進んだ「生成AIバブル」は、一旦小休止となりそうです。
6月のナスダック100指数構成銘柄のパフォーマンスからも、「非生成AI関連銘柄」が足元で注目されていることが示されました(図表5)。ただ、生成AIブームが下火になったとは程遠く、生成AIがもたらし得る変革と投資チャンスは引き続き、注目されると思います。
図表5 ナスダック100指数構成銘柄の騰落率上位10銘柄
ナスダック100指数構成銘柄のうち、騰落率上位10銘柄(6月)(株価、予想PER、予想PSRは6/6時点) | ||||||
銘柄コード | Bloomberg銘柄名 | 6月騰落率(6/6まで) | 株価(ドル) | 予想PER(倍) | 予想PSR(倍) | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | JD | JDドットコム | 15.8% | 37.75 | 13.4 | 0.4 |
2 | ZS | ゼットスケーラー | 12.9% | 152.99 | 93.7 | 13.9 |
3 | BKR | ベーカー・ヒューズ | 12.3% | 30.59 | 19.9 | 1.2 |
4 | PDD | PDDホールディングス | 11.5% | 72.81 | 17.5 | 3.7 |
5 | TSLA | テスラ | 8.5% | 221.31 | 64.3 | 7.0 |
6 | PCAR | パッカー | 8.5% | 74.59 | 9.4 | 1.2 |
7 | BKNG | ブッキング・ホールディングス | 8.0% | 2708.10 | 19.9 | 4.9 |
8 | MAR | マリオット・インターナショナル(メリーランド) | 7.8% | 180.90 | 21.7 | 2.3 |
9 | ALGN | アライン・テクノロジー | 7.8% | 304.68 | 36.8 | 5.9 |
10 | DDOG | データドッグ | 7.3% | 101.85 | 86.4 | 15.7 |
ナスダック100指数構成銘柄のうち、騰落率上位10銘柄(年初-5月まで)(株価、予想PER、予想PSRは6/6時点) | ||||||
銘柄コード | Bloomberg銘柄名 | 年初-5月までの騰落率 | 株価(ドル) | 予想PER(倍) | 予想PSR(倍) | |
1 | NVDA | エヌビディア | 158.9% | 386.54 | 50.4 | 22.2 |
2 | META | メタ・プラットフォームズ | 120.0% | 271.12 | 20.9 | 5.5 |
3 | AMD | アドバンスト・マイクロ・デバイセズ | 82.5% | 124.23 | 44.4 | 8.7 |
4 | TSLA | テスラ | 65.6% | 221.31 | 64.3 | 7.0 |
5 | MRVL | マーベル・テクノロジー | 57.9% | 59.14 | 38.6 | 9.2 |
6 | PANW | パロアルト・ネットワークス | 52.9% | 224.72 | 52.7 | 10.0 |
7 | SGEN | シージェン | 52.3% | 195.47 | - | 15.7 |
8 | CRWD | クラウドストライク・ホールディングス | 52.1% | 153.04 | 64.4 | 12.0 |
9 | LRCX | ラムリサーチ | 46.7% | 612.20 | 18.5 | 4.7 |
10 | MELI | メルカドリブレ | 46.4% | 1254.45 | 71.8 | 4.7 |
※BloombergデータによりSBI証券が作成
6月のこれまでの米国市場には、もう一つの特徴がありました。それはナスダック100指数が強いようで、その影では小型株指数であるラッセル2000指数が見直されていることです(図表6)。
図表6 ナスダック100指数とラッセル2000指数の推移(年初来)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
背景には、ハイテク株を中心としたナスダック100指数の好調が年初から続いたことで、高値警戒感が出てきたことに加え、上記(1)の部分で確認したように、「生成AIバブル」を警戒する声が出たためと考えられます。「生成AIバブル」については、1990年代のITバブルとの比較を試みようとする動きも出はじめています。
たとえば、ナスダック100指数の終値をラッセル2000指数の終値で割った単純の株価相対比(ナスダック100指数/ラッセル2000指数)でみた場合、6/1に8.2となり、ITバブル時のピーク時の8.2と同水準になった(図表7)ことがBloombergTVで取り上げられました。
株価相対比でみた場合、ラッセル2000指数の出遅れが鮮明になったことで、6月に入ってからラッセル2000指数が見直されているかもしれません。この動向がいつまで続くかのかは現時点で不明ですが、大型ハイテク株のポジションが比較的高いポートフォリオとなっている投資家にとっては、この動向がしばらく続き、ラッセル2000指数がナスダック100指数を逆転する可能性があることも考慮に入れる必要があるかもしれません。逆転した際のリスクヘッジ手段として、ラッセル2000指数や小型株指数に連動するETFを少し組み入れても良いかもしれません。
図表7 ナスダック100指数/ラッセル2000指数とFFレートの推移(過去30年)
図表8 SBI証券で取り扱っている主な米国小型株指数
銘柄コード | 銘柄名 | 対象指数 |
---|---|---|
IWM | iシェアーズ ラッセル 2000 ETF | Russell 2000 インデックス |
IJR | iシェアーズ・コア S&P 小型株 ETF | S&P 小型株600 インデックス |
VB | バンガード スモールキャップ ETF | CRSP USスモールキャップ・インデックス |
VIOO | バンガード S&Pスモールキャップ600 ETF | S&Pスモールキャップ600指数 |
VBR | バンガード 米国スモールキャップ・バリューETF | CRSP USスモールキャップ・バリューインデックス |
VBK | バンガード 米国スモールキャップ・グロースETF | CRSP USスモールキャップ・グロースインデックス |
※当社ホームページよりSBI証券が作成