AI半導体大手のエヌビディア(NVDA)が好決算を発表したにもかかわらず、株価の勢いは前回の決算発表時より鈍くなっています。一方、”ベトナム版テスラ”と期待されている新興EVメーカーのヴィンファスト オート(VFS)(通称、ビンファスト)は8/15にナスダック市場に上場後、急騰しました。今回は、この二つの事象からテック株の動向と投資のヒントを探ってみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄 (Bloomberg銘柄名)
銘柄 | 株価(8/29) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
エヌビディア(NVDA) | 487.84米ドル | 502.66米ドル | 108.13米ドル |
テスラ(TSLA) | 257.18米ドル | 313.80米ドル | 101.81米ドル |
ヴィンファスト オート(VFS) | 46.25米ドル | 93.00米ドル | 9.11米ドル |
ヴァンエック 半導体 ETF(SMH) | 154.80米ドル | 161.17米ドル | 83.49米ドル |
Direxionデイリー半導体株ブル3倍ETF(SOXL) | 23.07米ドル | 28.75米ドル | 6.21米ドル |
Direxionデイリー半導体株ベア3倍ETF(SOXS) | 9.53米ドル | 89.59米ドル | 8.17米ドル |
- 注:ブル・ベアETFについては、レポートの最後にある注意事項をご確認ください。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
AI半導体大手のエヌビディア(NVDA)が8/23に好決算を発表したにもかかわらず、株価の勢いは前回の決算発表時より鈍くなっています(図表2)。
図表2 エヌビディア(NVDA)とSOX指数の年初来推移
注:目標株価はBloombergの集計です。
※Bloombergおよび各種資料によりSBI証券が作成
エヌビディアは今年に入ってからAIブームの恩恵を受け、業績と株価がともに好調でした。特に5月末の決算発表時は市場予想を5割以上も上回る売上高ガイダンスを示し、翌取引日の株価は24.4%も上昇しました。決算発表後、アナリストたちは相次いでエヌビディアの目標株価を引き上げました。
直近の8/23の決算発表でも、エヌビディアは好業績を発表しました。特にAI関連製品向け売上が計上されるデータセンター部門は、5-7月期に売上高が前年同期の2.7倍に膨らみました。生成AIや大規模言語モデル向け製品に対する需要の加速が追い風となりました。また、粗利益率(調整後)は5-7月期に71%に上昇し、同社の価格決定力の強さ、裏を返せば代替製品の乏しさが改めて示されました。8-10月期の売上高ガイダンス(中央値)も前年同期比170%増、5-7月期より19%増になる見通しで、市場予想を上振れました。
好決算を受け、アナリストたちはエヌビディアの目標株価を大幅に引き上げました(図表2の一番右側)。しかしながら、翌8/24のエヌビディアの株価は0.1%上昇にとどまりました。その後、持ち直しましたが、今回の決算発表後の勢いが前回より鈍くなっていることが示されました。。
8/16付レポート「【米テック株ウォッチャー】エヌビディアの調整は買いチャンスか、それとも警戒のサインか?」で触れましたように、エヌビディアの株価は7/18に終値ベースで史上最高値を付けた後は、ニュースフローに対する株価反応が明確に変わってきました。つまり、7/18までは好材料に対して株価が素直に反応し上昇したの対し、7/18以降は株価が好材料に対して反応薄になっています。
その要因として、米国の金利上昇とバリュエーション面での割高感が挙げられます。
金利上昇は、グロース株の将来的利益の目減りにつながるため、エヌビディアなどのテック株にとってはマイナス要因です。なお、8/29にエヌビディアの株価は4%上昇し、決算発表後に初めて大幅高となりました。8/29は7月の米求人件数が約2年ぶりの低水準となり、年内の米追加利上げ観測の後退で米10年債利回りが大幅に低下しました。したがって、エヌビディアの株価は決算内容よりも金利動向により左右されるようになっていると言えます。
考えられる要因としては、年初から株価が3倍以上に上昇したエヌビディアにとって、好業績はもはやサプライズでなくなっており、投資家の「AIへの投資熱」は年前半ほど「熱くなくなっている」ということです。この点は、決算発表前に警戒されたエヌビディアの高バリュエーションが低下したにもかかわらず、バリュエーションが依然として高水準と指摘されていることにも共通しています。
図表3を確認してみると、エヌビディアの予想PER(株価収益率)は8/23の決算発表直前は57.7倍となっていました。この水準は、2021年の低金利環境とコロナ特需の恩恵で株高となった時の高値(58.4倍)をわずかに下回っていたことで、割高感が指摘されました。しかしながら、8/23に市場予想を大幅に上回るガイダンスを発表した後、アナリストたちによる業績の上方修正が相次ぎ、その結果、エヌビディアの予想PERは45.7倍に低下しました。過去3年平均のおよそ40倍をわずかに上回る水準となり、割高感はだいぶ解消されたと言えます。
図表3 エヌビディア(NVDA)の終値と予想PERの推移(2020年8月以降)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
したがって、好決算のエヌビディアの”ダメなところ”はなく、変わったのは投資家の姿勢、つまり米国の金利動向をめぐる不透明感からくる投資家のリスクテイク姿勢の変化と言えそうです。投資家の「AIへの投資熱」が年前半ほど「熱くなくなっている」ことも併せて考えると、金利動向の不透明感が付きまとう間は積極的なリスクテイクはある程度抑制される可能性があります。中長期投資に値するエヌビディアに対しても、押し目買いは時間分散を図ったほうが良さそうです。
8月中旬以降、”ベトナム版テスラ”と期待されている新興EVメーカーのヴィンファスト オート(VFS)(通称ビンファスト、以下ビンファスト)の急騰ぶりが注目を集めています。特に特別買収目的会社(SPAC)との合併完了後、8/15に上場した初日は株価が271%上昇し、時価総額がゼネラル モーターズ(GM)やフォード モーター(F)を優に超えたことが話題を呼びました。
図表4 ビンファストの終値と騰落率(8/15以降)
図表5 主要自動車メーカーの時価総額の推移(8/15以降)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
新興EVメーカーとして派手な上場ぶりとなったビンファストについて、図表6では会社概要、図表7では業績動向について簡単にまとめました。
図表6 ビンファストの会社概要
※会社資料(上場目論見書など)およびBloombergによりSBI証券が作成
図表7 ビンファストの部門別売上高、営業損益、純損益(2021年と2022年)
※会社資料(上場目論見書など)およびBloombergによりSBI証券が作成
図表6と図表7からは、ビンファストの特徴として、以下3つが挙げられます。
1)ベトナム初の新興EVメーカーとして赤字が続いており、納入実績もまだ乏しい。一定の販売台数が達成されるまで現金燃焼は続き、当面はVingroupからの資金供給に頼る状況が続くと予想される。
2)市場規模が限られたベトナム市場に特化するのではなく、早い段階から海外に進出している。特に世界最大EVメーカーのテスラ(TSLA)の本拠地である米国に進出し、あえてテスラに挑戦している点は興味深い。なお、米国での販売状態は今のところ冴えず、米国向けに初出荷した第1弾のEV全車両はリコールを余儀なくされている。今後、販売実績を積み上げていく必要があるが、不透明感は多いと言わざるを得ない。
3)浮動株比率が1%未満と極めて低く、それが株価変動の大きな要因となっていると考えられる。つまり、同社株は新興EVメーカーとしての可能性に着目した取引よりも、浮動株が少ないことに注目した一部投資家の需給が株価変動を増幅させている可能性が高い。
このようにみると、赤字のビンファストが人気を博している”良いところ”は、あえて言えば浮動株比率が低いところかもしれません。しかしながら、この点は賢明な投資家にとってみればむしろリスク要因として警戒すべきでしょう。総合的にみると、ビンファストについては現段階で投資を考えるよりも動向を見守る姿勢を取ったほうが良さそうです。もし投資を考えるにしても、株価変動が異常に大きくなる可能性があることを覚悟した方が良いかもしれません。
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