2022年は一時200ドル割れもあったネットフリックスの株価が、加入者純増の回復とともに400ドル台を奪回しました。上場来高値700ドルに向け回復は続くのか注目されますが、共有アカウント対策の導入が株価回復の原動力になると期待されます。
図表1 言及した銘柄
銘柄 | 株価(9/5) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ネットフリックス(NFLX) | 448.68ドル | 485.00ドル | 211.73ドル |
ウォルト ディズニー(DIS) | 81.19ドル | 118.18ドル | 80.53ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ネットフリックスについて、昨年10月に「株価が大幅下落したネットフリックスに復活はあるのか!?」(2022年10月5日付外国株式特集レポート)を掲載しましたが、その後株価は順調に回復しています。今回は今後も株価の回復が続くかどうかについて考えてみました。
〇大幅に回復したネットフリックスの株価
ネットフリックスの株価は新型コロナのパンデミック中に加入者純増が急増したことを受けて2021年には一時700ドルを超えましたが、2022年に入って加入者純増がマイナスに転じたことから、一時200ドルを割れる水準まで下落しました。当時はネットフリックスの対象市場は飽和に達し、もう成長できない可能性があるのではとまで言われました。
しかし、2022年4-6月期決算発表で7-9月期の加入者純増のガイダンスが100万人のプラスとなって安心感が広がり、実際7-9月期の加入者純増は241万人とプラスに転じて、株価はそれ以降回復基調にあります。筆者が上記のレポートを掲載した当日の株価は236.73ドルでしたが、先週末の9/1(金)には439.88ドルまで回復しています。
〇加入者純増の回復は本物か?
加入者純増は順調な増加を記録していますが、2022年前半のように加入者純増がマイナスとなって、成長余地がなくなったのではと懸念されたような状況はもう心配しなくてよいのでしょうか?
これについては昨年前半の状況は非常に特殊だったと考えられます。株式市場でもパンデミック時に加入者が急増して需要の先食いが起こっていることは重々承知しており、その程度によっては反動でマイナスに転じる可能性も想定されていたはずです。
しかし、当時判断を難しくしていたのは、ウォルトディズニーの「ディズニー+」が2019年11月に非常に安い戦略価格で参入して、加入者を大幅に増やしていたことがあります。加入者純増のマイナスは、パンデミックの反動だけなのか、強力な競合の出現によるシェアの喪失なのか、判断が難しかったと考えられます。
現実にマイナスの数字が出ると、「ネットフリックスは既に成長力を失っている」と極端な弱気の論調が台頭、株価は200ドルを割り込み、予想PERは12倍台まで下がるということが起こってしまいました。
現在ウォルトディズニーは、「ディズニー+」の赤字を抑えるために、戦略価格から事業維持可能な価格に修正しつつあることから、競合条件は緩和しつつあります。一方、ネットフリックスは広告付きの低価格プランを2022年11月から導入して、これも奏功しているとみられます。
さらに、次節でご説明するように、「共有アカウント対策」の導入に成功したとみられることから、今後の加入者数は安定した増加が期待できそうです。
図表2 ネットフリックスの株価(週足、3年)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表3 四半期加入者純増の推移(百万人)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ネットフリックスの加入者純増が安定した増加基調を取り戻し、株価の回復が持続すると期待される背景として、共有アカウント対策の導入成功が挙げられます。この点について、以下詳しくご説明いたします。
〇共有アカウント対策とは?
ネットフリックスは、インターネット上でIDとパスワードを入力してアカウントにログインして視聴する方式のため、例えば加入者が友人とログイン情報を「共有」することで、その友人は事実上無料で視聴することが可能でした。
会社も不正なアカウント共有が行われていることは承知していましたが、友人の家を訪れて自身のアカウントでログインして一緒に視聴したというような言い逃れが可能であり、また、不正を厳格に取り締まるのはコスト的に合わなかったようで、黙認される状態が続いていました。
このような状態に規制をかけて不正に無料で視聴している人を有料会員に転換していくというのが、昨年から進められた共有アカウント対策になります。
〇共有アカウント対策の導入
共有アカウントの取り締まりは、利用者がどう反応するか読めない部分があったため、非常に慎重に進められました。共有アカウントが特に多いとされた南米の4カ国で2022年10月から試験的に導入して、その経験と結果を踏まえて、2023年4-6月期に北米、その他の海外地域に広げていきました。
共有アカウント対策は今年5月に同社の売上ベースで80%超に相当する100ヵ国以上で導入済となっています。同対策の導入後に加入者数と売上増加につながっていることから同施策は成功と言え、今後数年にわたる成長要因を手に入れたと考えられます。
4-6月期の加入者純増は共有アカウント対策の効果が出て206万人増の市場予想に対して589万人増となり、7-9月期も589万人の増加(市場予想、ネットフリックスはガイダンスを発表しなくなりました)が見込まれています。
共有アカウントによって無料で視聴している人は世界に1億人以上いると言われています。2023年6月末の加入者数は2.38億人ですので、無料で視聴していた人々が料金を支払う加入者に転換していくインパクトは非常に大きいと考えられます。
〇筆者の「共有アカウント対策」の経験
筆者の家での経験をお話しますと、4人家族のため複数の端末で同時に視聴できる「プレミアム」(月額1,980円)に加入しています。昨年11月に子供の一人が家を出て別世帯となりましたが、今年6月まではこれまでと同じように両世帯でテレビを通じて視聴できていました。
しかし、7月に子供がテレビで見ようとすると、主たる視聴場所を変更するかという警告が出て、変更しないとテレビでは視聴できなくなりました。パソコンやスマホで見る分には問題ないものの、テレビを通じてみられるのは指定した場所のみに規制が強まったようです。
いまのところ契約はそのままにしてありますが、両方の世帯でテレビでみられないと不便だとなった場合には、別世帯となっている子供に新たに契約してもらうしかないだろうと思っています。
ネットフリックス側からすると、共有アカウントの対策を強化したことで、加入者が1人増え、売上は「ベーシック」プランなら990円増えるということになります。このようなことが世界中で起こっていると考えられます。
図表4 ネットフリックスの視聴プラン(日本、9月1日時点)
プラン名 | 月額料金 | 同時に視聴できる デバイス数 |
画質 |
---|---|---|---|
広告付スタンダード | 790円 | 2台 | フルHD(1080p)の高画質 |
ベーシック | 990円 | 1台 | HD(720p)の優良画質 |
スタンダード | 1,490円 | 2台 | フルHD(1080p)の高画質 |
プレミアム | 1,980円 | 4台 | UHD 4KとHDRの最高画質 |
※会社WEBサイトの情報をもとにSBI証券が作成
ネットフリックス(NFLX) | 時価総額: 1,949億ドル | ||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
22.12 | 31,616 | 6% | 4,331.5 | -11% | 9.59 |
23.12予 | 33,794 | 7% | 5,392.8 | 25% | 12.11 |
24.12予 | 38,184 | 13% | 6,950.1 | 29% | 15.53 |
25.12予 | 42,513 | 11% | 8,635.3 | 24% | 19.25 |
株価(9/1): 439.88ドル | 予想PER(23.12期): 36.3倍 |
注:予想はBloombergが集計するコンセンサス予想によります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇業績動向
同社は海外売上が50%以上を占めるため、為替動向の影響が大きく出ます。2022年12月期はドル高によって海外売上が目減りして減益となりました。2023年12月期の前半はドル高の影響が残りますが、後半にかけて影響は緩和して、通年で増益に回帰すると見込まれます。2024年12月期、2025年12月期とも共有アカウント対策の効果や広告プランの導入による売上増により、売上は2桁の増加が見込まれており、利益率も上昇する予想となっています。
2023年4-6月期はドル高の影響を受けたものの、売上は前年同期比3%増、EPSは同3%増とプラスを確保しました。7-9月期は売上が前年同期比8%増、EPSが同14%増と、業績の伸びが高まるガイダンスです。なお、ハリウッドの脚本家・俳優によるストの影響で、今年はコンテンツへの支出が予定よりも減る見通しです。
〇中期の業績見通し
同社はオリジナルコンテンツの創作能力や会員のエンゲージメント(視聴時間や視聴頻度)を高める能力に定評があり、これによって価格決定力やユニットエコノミクス(顧客1人当たりの採算性を表す数値)を高めることで順調な成長の持続が期待されます。
同社のセールスポイントである幅広いコンテンツによって盤石な地位を占めつつ、広告付きプランの導入が加わったことで、全世界で8億人のターゲット市場(中国を除く)の取り込みが進むと期待されます。
地域別の加入者数では、北米を除く世界で増加余地が大きいと見られます。北米は2022年に前年から減少して、概ね飽和に達したとみられます。ただ、昨年来導入された施策で増加の余地が出てくる可能性もありそうです。
図表5 地域別加入者数の推移(各期末、百万人)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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