サイバーセキュリティ業界は、時価総額が大きい主力銘柄を中心に株価も大幅な上昇となっているものが多くなっています。4-6月期、5-7月期の好決算を受けて通期見通しを上方修正したものが多く、引き続き注目できるでしょう。
図表1 注目銘柄
銘柄 | 株価(10/17) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
Zスケーラー(ZS) | 172.29ドル | 176.31ドル | 84.93ドル |
クラウド ストライク ホールディングス A(CRWD) | 187.14ドル | 190.36ドル | 92.25ドル |
パロ アルト ネットワークス(PANW) | 261.74ドル | 265.90ドル | 132.22ドル |
オクタ A(OKTA) | 86.17ドル | 91.50ドル | 44.12ドル |
クォリス(QLYS) | 162.80ドル | 165.03ドル | 101.10ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は業績、株価とも好調なサイバーセキュリティ業界を取り上げます。
〇サイバーセキュリティの株価パフォーマンスは良好
サイバーセキュリティ銘柄のパフォーマンスは好調です。同セクターに投資する代表的ETFである「グローバルX サイバーセキュリティETF(BUG)」とS&P500指数の比較を図表2に示します。
これを見ると、新型コロナのパンデミック下の2020年から2021年にかけて市場平均を大幅にアウトパフォームした後、2022年は大幅にアンダーパフォームしました。一方、2023年は市場平均を安定的に上回って推移して好調なことがわかります。
さらに、これを個別で見ると、時価総額が小さい銘柄に株価が下落したものがあり、全体の足を引っ張っていますが、時価総額が大きい、サイバーセキュリティの中心的銘柄のパフォーマンスは総じて市場平均を大きく上回っているものが多くなっています。
〇主力銘柄のパフォーマンスがきわめて好調
「グローバルX サイバーセキュリティETF」の組入上位10銘柄の年初来の株価騰落率(図表3の右から2番目のコラム)を見ると、主力銘柄で大幅に上昇しているものが多いことがわかります。
年初から10/13(金)までS&P500指数は12.7%の上昇ですが、これを下回ったのは10銘柄中2銘柄に過ぎず、20%以上の上昇となったものが7銘柄もあります。
2022年の株価調整でパンデミック下でのバリュエーションの行き過ぎは調整され、その後も業績の拡大が順調に続いていることが背景にあるとみられます。
〇大部分の銘柄が業績好調
サイバーセキュリティの銘柄は株価だけでなく、業績も好調です。
図表3の一番右のコラムは、過去3ヵ月間の通期EPSの修正率ですが、バロニスシステムズ(VRNS)を除いてすべて上方修正で、10%以上の大幅な修正となっている銘柄も散見されます。
直近の四半期決算は、売上では市場予想を上回るもの、下回るものがまちまちでしたが、EPSについてはバロニスシステムズを除くすべての銘柄が市場予想を5%以上上回り、20%以上上回る銘柄が6銘柄と、業界全体として好調となっています。
なお、バロニスシステムズについても、販売モデルがソフトウェアの売り切りからサブスクリプションに移行しつつあり、その移行スピードが予想以上となったことが、EPS下方修正の主因とみられます。4-6月期の年間経常収益(ARR)は前年同期比17%増の497百万ドルで、市場予想を2.4%上回っています。業績の基調は売上・EPSとも上方修正に相当すると考えられます。
第3節で、年初来の株価上昇率が高い主力銘柄をご紹介いたします。
図表2 サイバーセキュリティETFのパフォーマンス
注:最後のデータは10/3(火)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3 サイバーセキュリティETFの組入上位10銘柄
注:データは10/13(金)時点です。米国市場以外の上場銘柄は除いています。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
業績、株価の両面から注目できるサイバーセキュリティ業界ですが、何を買えばよいか検討するために、業界トレンドをみてみましょう。
〇サイバーセキュリティは、企業のIT投資の中では堅調
企業のIT支出はパンデミック下での投資拡大からの反動や景気減速への懸念もあって、生成AI関連以外では鈍化傾向にあり、
商談の長期化が見込まれています。一方、サイバーセキュリティの分野は企業のIT支出の中でも優先順位が高いとみられ、相対的に堅調な推移が期待されます。
先月9月には米ラスベガスのカジノ、MGMリゾートやシーザーズパレスがランサムウェア攻撃を受けたことが大きく報道されました。特にMGMリゾートの被害額は110百万ドル(一時費用に10百万ドル、売上喪失で100百万ドル)に上る象徴的な案件となったこともあり、企業によるサイバーセキュリティへの支出は確保されやすい環境とみられます。
〇「ゼロトラスト」技術の重要性が増す
数々あるサイバーセキュリティの技術の中では、「ゼロトラスト」関連の重要性が増しているとみられます。ゼロトラストとは、 ネットワークの内部と外部を区別することなく、守るべき情報資産やシステムにアクセスするものは全て信用せずに検証することで、脅威を防ぐという考え方です。
業界で「ゼロトラスト」関連のみを手掛ける企業は少ないものの、主要銘柄の中ではZスケーラー(ZS)とパロ アルト ネットワークス(PANW)の関連性が大きく、両社は業界トレンドから恩恵を受けると期待されます。
また、サイバー攻撃で大きな被害が出たMGMリゾートの案件では、オクタ A(OKTA)のID管理サービスが使われていたため、オクタの悪材料と考えられます。ただ、オクタはこの分野でリーダーのポジションにあるため、「ゼロトラスト」への対応が広がる中で、高機能なサービスへのアップグレード、追加売上の増加などが期待できる可能性があります。
〇業界の合従連衡が続きそう
9月にシスコシステムズ(CSCO)がマシンデータの収集とデータ解析プラットフォームのスプランク(SPLK)を280億ドルで買収、サイバーセキュリティ業界で過去最大のM&Aとなりました。
サイバー攻撃に対して防御壁を高くしても完全には防ぎきれないため、ITシステムを構成する機器のログ情報を自動的に収集し分析することで異常を感知しようという目的での買収と考えられます。
サイバーセキュリティ業界は図表4の通り、市場シェア上位10社の合計は38%に過ぎず、まだ、細分化された市場であることが続いているため、合従連衡が続く見通しです。
一般にM&Aの活発化は企業評価の引き上げにつながることが多く、業界株価にポジティブに効くと考えられるため、注目です。
【サイバーセキュリティ業界の大型M&A(過去5年、100億ドル以上)】
・シスコシステムズがマシンデータの収集とデータ解析プラットフォームのスプランクを280億ドルで買収(2023年)。
・アドベント・インターナショナルが主導する投資家グループがマカフィーを140億ドルで買収(2021年)。
・半導体大手のブロードコム(AVGO)がシマンテックの法人部門を107億ドルで買収(2019年)。
図表4 世界におけるサイバーセキュリティの市場規模とシェア(2022年)
※IDC、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
○Zスケーラー(ZS)
【企業概要】
米国のITサービス、ソフトウェア企業です。企業のITシステムがクラウド化するにつれ、オフィスだけでなく出先からノートPCやスマホで業務を行うことが増えていますが、そのような場合に有利となるウェブセキュリティのサービスを提供しています。同社のセキュリティゲートウェイは、グローバルに150ヵ所以上ある同社のデータセンターで提供されており、5大陸をカバーしているためユーザーはもっとも近いデータセンターを経由してアプリケーションを利用可能です。フォーチュン500企業の40%超、フォーブズGlobal2000企業の30%超を含む7,700社を顧客としています(2023年7月末)。
【会社の見方】
一般的にSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)などクラウド上のアプリケーション利用をコントロールするため、外部から一度社内のネットワークを介してアクセスさせる、といった運用をしている企業が多くなっています。この運用方法では、外部から接続するためのネットワークインフラを整備するために多くのコストがかかるだけではなく、通信速度などに影響されてパフォーマンスにも制限が出ます。しかし、同社のサービスを利用すれば、グローバルに150ヵ所以上あるデータセンターの同社セキュリティゲートウェイを経由し、社内ネットワークに接続することなくアプリケーションに接続することができます。ネットワークセキュリティ業界で「ディスラプター」(創造的破壊者)として成功を収めつつあると考えられます。
【見通し・注目点】
「ゼロトラスト」の広がりの波に乗って、5-7月期決算は売上が前年同期比48%増、調整後EPSが同2.6倍、それぞれ市場予想に対して6%、30%上回ってきわめて好調です。2024年7月期は、売上は前年比27%増で、純利益はGAAPベースで初めて黒字化を見込みます。調整後営業利益は、同37〜41%増を見込みます。
○クラウド ストライク ホールディングス A(CRWD)
【企業概要】
米セキュリティ大手マカフィーのCTO(最高技術責任者)を務めた経歴をもつジョージ・カーツCEOらが2011年に立ち上げ たサイバーセキュリティ企業で、2019年6月に新規上場しました。同社の「Falcon」プラットフォームは、エンドポイント(情報端末)にインストールして不正を検知する軽量なエージェント、これと連携してサイバー攻撃への対応策を提示する脅威インテリジェンス、また、脅威ハンティングのサービスなどからなります。
【会社の見方】
サイバー攻撃に対する防御として、ネットワークへの侵入を防ぐやり方と、エンドポイントで不正な動きを検知する やり方がありますが、標的型の攻撃が増えたことでネットワークへの侵入を完全に防ぐのは現実的ではなくなり、侵入後の不正な動きを検知するエンドポイント保護の重要性が増していると言われています。2020年末には米政府機関などを標的とした大規模なサイバー攻撃が発覚しましたが、そうした事件が相次いで発生していることも同社の追い風になっていると思われます。
【見通し・注目点】
エンドポイント検知分野でのリーダーの地位を確立したことで、5-7月期の売上高は前年同期比37%増、調整後EPSは同2.0倍で、それぞれ市場予想を1%、32%上回って好調でした。EPSの好調を受けて、2024年1月期のEPSガイダンスは、2.32〜2.43ドルから2.80〜2.84ドルへ大幅に引き上げました。
○パロ アルト ネットワークス(PANW)
【企業概要】
ファイアウォール、エンドポイント型ソフトウェア、セキュリティインテリジェンスなどの総合的なサイバーセキュリティサービスを提供する会社です。ネットワークセキュリティの「Strata」、クラウドセキュリティの「Prisma」、セキュリティオペレーションセンター(SOC)の「Cortex」などの製品を擁します。ネットワークセキュリティの分野では、シスコシステムズを抑えて17%のトップシェアを保有するとされます(IDCの調査)。地域別売上は、米州68%、欧州・中東・アフリカ20%、アジア太平洋12%と、グローバルに展開しています(2023年7月期)。
【会社の見方】
2024年7月期の合計請求額は前年比19〜20%増が見込まれており、フォーティネット、チェックポイントソフトウェアテクノロジ、シスコシステムズなどの総合的にセキュリティサービスを提供する同業を上回ってシェアを拡大する見込みです。SASE(ゼロトラストの考え方を前提としたネットワーク、セキュリティ機能)やエンドポイントセキュリティソリューションなどのクロスセルが奏功しているとみられます。
【見通し・注目点】
5-7月期決算は売上が前年同期比26%増、調整後EPSが同80%増で、売上は市場予想並み、調整後EPSは市場予想を12%上回りました。2024年7月期のガイダンスは、売上が前年比18〜19%増、調整後EPSは同19〜22%増に相当する5.27〜5.40ドルを見込みます。
○オクタ A(OKTA)
【企業概要】
企業向けにID管理のクラウドサービスを提供する企業です。企業ITシステムのクラウド化が進む中、従業員がアプリケーションをクラウドで利用することが多くなっていますが、従業員数が多い企業ではどの従業員にどのサービスを許可するかの管理が煩雑に なっています。オクタは社内システムかクラウドかを問わずアプリケーションIDを管理できるプラットフォームを提供しています。また、従業員はオクタのサイトにログインするだけであとは利用したいアプリケーションごとのログインは不要となります。
【会社の見方】
ガートナーの調査によるとオクタが主力事業とする「アクセスマネジメント」業界ではマイクロソフトとともにリーダーとされ、クラウド化の進展とともに成長する業界の拡大を享受できるポジションにあると見られます。顧客企業数が順調に増加しているうえ、既存顧客のサービス利用も拡大傾向にあることから、売上の伸びが非常に高くなっています。専業の競合企業には、Ping Identity、Centrify、OneLoginなどがあります。
【見通し・注目点】
5-7月期決算は売上が前年同期比23%増、調整後EPSは0.1ドルの赤字から0.31ドルの黒字に転換、それぞれ市場予想を4%、43%上回って好調でした。8-10月期の売上は前年同期比16%増、調整後EPSは0.29〜0.30ドル、2024年1月期は売上が前年比19%増、調整後EPSは1.17〜1.20ドルのガイダンスです。
○クォリス(QLYS)
【企業概要】
1999年に創業したITセキュリティ上のリスク管理およびコン プライアンス管理ソリューションの会社で、脆弱性管理、企業方針コンプライアンス、ウェブ アプリケーションのチェック、 破壊工作ソフト探知、関連セキュリティ製品などを 提供します。フォーブズのグローバル50企業の70%、グローバル500企業の46%、グローバル2000企業の31%を含む1万社以上を顧客とします(2023年10月)。2012年に新規上場しました。
【会社の見方】
システムの脆弱性管理のソリューションをSaaSモデルを通じて初めて提供した企業で、脆弱性の分析、管理に強みをもちます。また、利益率が高いのも特徴です。純利益が黒字化して既に10年以上が経過しており、2022年12月期の調整後EBITDA(利払い、税金、償却前利益)利益率は45%と、業界の中でトップ級の水準に達しています。
【見通し・注目点】
4-6月期決算は、売上が前年同期比14%増、調整後EPSが同43%増で、それぞれ市場予想を1%、25%上回って好調でした。2023年12月期のガイダンスは、売上が前年比13%増と従来ガイダンスをわずかに下方修正する一方、調整後EPSについては、2.58〜2.73ドルから3.07〜3.22ドルへ大きく引き上げています。
図表5 注目銘柄の業績表
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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