非課税となる年間投資枠が拡大、また、非課税保有期間が無期限化された「新NISA」に投資家の関心が高まっています。最近の米国株投資への関心の高まりも相まって、「『新NISA』で米国株に投資したいけれど何がいいだろう?」という声にお答えすることを目的に当レポートを作成しました。
図表1 注目銘柄リスト
銘柄名 | 株価(1/23) | 52週高値 | 52週安値 |
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エアープロダクツ アンド ケミカルズ(APD) | 263.24ドル | 320.90ドル | 251.63ドル |
マクドナルド(MCD) | 300.05ドル | 302.39ドル | 245.73ドル |
オートマチック データ プロセシング(ADP) | 240.36ドル | 256.84ドル | 201.46ドル |
ペプシコ(PEP) | 167.64ドル | 196.88ドル | 155.83ドル |
メドトロニック(MDT) | 86.34ドル | 92.02ドル | 68.84ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
2024年から「新NISA」の制度が始まりました。
2014年にスタートした従来のNISAに比べて非課税となる年間投資枠が拡大、また、非課税保有期間が無期限化されたことで、投資家の関心が高まっています。
その中で最近の米国株投資への関心の高まりと相まって、「『新NISA』で米国株に投資したいけれど何がいいだろう?」というお声もお聞きします。このようなお声にお答えすることを目的に当レポートを作成しました。
〇「新NISA」で米国株に投資したいが、何がいいだろう?
まず考えられるのは、幅広い銘柄に分散投資されたETF(上場投資信託)です。S&P500指数、ナスダック総合指数など代表的な株価指数に連動するものであれば、相場変動のフォローもしやすく、投資経験の浅い方から安心して投資できると考えられます。
一方、わざわざ日本株でなくて米国株に投資するからには、日本の株式市場にないタイプの銘柄を買いたいという考えもおありでしょうから、世界市場で強力な事業基盤を築く「マグニフィセント7」(マイクロソフト、アップル、アルファベット、メタプラットフォームズ、アマゾンドットコム、エヌビディア、テスラ)から選ぶことも考えられます。
ただし、こういったテクノロジー分野はイノベーションや競争が激しい分野であり、株価変動も比較的大きいと考えられるため、無期限化のメリットを生かした長期投資では注意が必要なところもあるでしょう。
そのような観点から、過去に配当を増やしてきた実績を基に選定された「配当貴族指数」は、参考になる銘柄ユニバース(母集団)と考えられます。
〇銘柄を検討するときに参考になりそうな「配当貴族指数」
「配当貴族指数」は、S&P500指数の構成銘柄から「25年以上連続して増配を実施している」銘柄を取り出した株価指数で、S&P500指数の算出元でもあるS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が提供する株価指数です。
“配当の成長”に注目する投資戦略のため、必ずしも「高配当銘柄」が集められているわけでないことにはご注意ください。また、歴史の長いオールド・エコノミーの企業が多いため、「マグニフィセント7」などテクノロジー株が主導して上昇する局面では、パフォーマンスは市場平均に割り負ける傾向があります(図表2)。
構成銘柄に関しては、「25年以上連続して増配」している企業群ですので、(1)必ずしも連続「増益」ではないわけですが、それにしても業績が長期に安定して拡大しているだろう、(2)25年間増配を続けているほどだから、株主還元に対する意識が高い会社だろう、と想定されます。
このため、その構成銘柄は優良企業を探す場合に有効なユニバースになると考えられます。
図表2 配当貴族指数 vs. S&P500指数(週足)
注:両指数とも配当を含むトータルリターン指数によります。最後のデータは1/22(月)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
当節では配当貴族指数の構成銘柄を概観したあと、「新NISA」を活用した投資にふさわしい銘柄について、配当利回りや売上成長性を条件としたスクリーニングで投資対象を検討してみます。
〇配当貴族指数の構成銘柄
配当貴族指数は、(1)S&P500指数の構成銘柄である、(2)25年以上連続して増配している(特別配当を除く普通配当が対象)、(3)選定時の時価総額が30億ドル以上、1日当たり売買代金平均が500万ドル以上、の条件で選定され、年1回入れ替えが行われます。現在67銘柄からなり、図表3はこれらの銘柄を業種(11業種分類)ごとに、時価総額順に並べています。
「生活必需品」ではウォルマート、P&G、コカ・コーラ、ペプシコ、「資本財・サービス」ではキャタピラー、3M、「ヘルスケア」ではジョンソン・エンド・ジョンソン、「金融」ではアフラック、「一般消費財・サービス」ではマクドナルド、「情報技術」ではIBM、「エネルギー」ではエクソン・モービル、シェブロンなど、日本の投資家にもよく知られた銘柄が含まれています。
〇「新NISA」で投資するのに良いのは、どのような銘柄がよいか?
長期投資を前提に「新NISA」で投資するのに望ましい銘柄の性質として、「ある程度規模が大きい」「配当利回りもある程度ほしい」「業績が拡大している会社が望ましい」「足もとの事業環境も悪すぎない」の4つを考えました。
それぞれの性質を念頭に以下の(1)〜(4)のスクリーニング条件に落とし込みました。
(1)時価総額が500億ドル(約7.4兆円)以上・・・知らないうちに破産したりしない、ある程度大きい企業
(2)配当利回りが2%以上・・・配当を支払っており、財務が安定している企業
(3)来期予想の増収率が2%以上・・・業績が拡大傾向にある企業が望ましい
(4)過去3ヵ月の通期EPS修正率が-1%以上・・・足もとの事業環境が悪すぎない
このスクリーニング条件で抽出された11銘柄を、来期予想の増収率が大きい順に図表4にリストアップしています。ここから上位の5銘柄を次節でご紹介いたします。
図表3 米国「配当貴族指数」の構成銘柄
注:1/17(水)時点のデータです。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 配当利回り2%以上、時価総額500億ドル以上の銘柄からスクリーニング
注:データは1/17(水)時点です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
銘柄名 | エアープロダクツ アンド ケミカルズ(APD) | 株価(1/23) | 263.24ドル | 予想PER(倍) | 20.3 |
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ポイント |
【産業ガスには安定成長の企業が多い】
・産業ガスの世界的大手の1社で、液化天然ガス設備で約50ヵ国、750超の施設を運営します。産業ガス業界は、一般的に扱いにくいガスを扱うという専門性に加え、顧客企業の工場に設備を建てて供給を行うことが多いため顧客との関係が安定しやすく、安定成長の企業が多い傾向があります。大手ではドイツにルーツをもつリンデも配当貴族指数に採用されており、フランスのエア・リキードも安定成長を遂げています。42年連続増配です。 ・同社の成長機会として、グリーン水素(水を電気分解して生産される水素)、ブルー水素(天然ガスや石炭等の化石燃料を分解して生産される水素)が注目されています。カリフォルニア州での「持続可能な航空燃料(SAF)」向けのグリーン水素プロジェクト、ルイジアナ州でのブルー水素プロジェクトのほか、サウジアラビアの世界最大級のグリーン水素製造装置ではEPC(設計・調達・建設)で参画しています。 |
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銘柄名 | マクドナルド(MCD) | 株価(1/23) | 300.05ドル | 予想PER(倍) | 24.0 |
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ポイント |
【巧みな経営施策で成長継続】
・世界最大のハンバーガーチェーンです。外食全体でも首位級で、100ヵ国以上で4万店を展開します。2015年以降に直営店のFC化を進めて収益性を改善しました。その後に売上成長性が鈍化した局面では、店舗改装で顧客体験を改善し、また、宅配の強化、ドライブスルーの拡充、デジタルへの投資(スマホでの注文)などで成長を強化してきました。47年連続増配です。 ・2020年12月期は、新型コロナの影響で減収減益、2022年12月期はロシア関連の損失で減益となりましたが、いずれも一時的な要因と考えられます。2023年7-9月期の既存店売上は、世界が前年同期比8.8%増、米国が同8.1%増です。デジタル投資の効果が持続しているうえ、値上げが効いて好調に推移しています。 |
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銘柄名 | オートマチック データ プロセシング(ADP) | 株価(1/23) | 240.36ドル | 予想PER(倍) | 26.3 |
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ポイント |
【ビジネスプロセスアウトソーシングには安定成長企業が多い】
・人事業務のアウトソーシング会社。人材管理のクラウドサービスが柱で、100万超の顧客企業を抱えます。給与から福利厚生、保険まで幅広く展開しています。民間の雇用指標である「ADP雇用統計」を毎月発表していることで有名です。49年連続増配です。 ・同社の事業は幅広くビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)に属しますが、同業界の世界売上ランキングは米国のアクセンチュア、フランスのキャップジェミニ、インドのタタ・コンサルタンシー・サービシズに次ぐ4位で世界シェアは6.3%(2022年)と、世界的な大手の1社と言えるでしょう。同業界には新規顧客の開拓によって長期的に安定成長を遂げている優良企業が多くあり、同社もその一つです。 |
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銘柄名 | ペプシコ(PEP) | 株価(1/23) | 167.64ドル | 予想PER(倍) | 20.6 |
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ポイント |
【甘い系のスナックに成長機会】
・スナック菓子と飲料が2本柱です。スナックでは「フリトレー」、飲料では「ペプシコーラ」「ゲータレード」など世界規模のブランドを複数所有、スナックは米国首位、飲料も首位級です。2023年12月期は、北米のスナック・飲料とも伸び、南米も好調持続、コスト増やドル高による逆風も製品値上げなどでこなす見込みです。51年連続増配です。 ・現在同社のスナックは塩味のものが中心ですが、甘いものへの展開に関心を高めており、今後の成長を支持する要因として注目されます。甘いビスケットやクッキー、スナックバー、フルーツバーの製造企業を買収して、同社が所有する「ドリトス」「チートス」「サンチップス」などの有名ブランドのもとで販売することが考えられます。 |
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銘柄名 | メドトロニック(MDT) | 株価(1/23) | 86.34ドル | 予想PER(倍) | 16.7 |
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ポイント |
【パンデミックによる混乱から回復へ】
・医療機器メーカー大手。電池式体外型心臓ペースメーカーの先駆者で、ペースメーカーは世界首位。主に心疾患、糖尿病、脊椎疾患などの各種医療機器や手術支援システムを展開します。長期的な売上成長目標を「5%プラス」としています。47年連続増配です。 ・新型コロナのパンデミックの影響で2020年4月期から2023年4月期にかけて業績動向は不安定になっていましたが、2024年4月期以降は回復見通しです。従来事業は年率4.5%程度の成長が可能と見込まれ、リードレスペースメーカーの「Micra」、手術支援システムの「Hugo」、仙骨神経刺激システム「InterStim」などの新製品投入が1%ポイントの上乗せになると期待されています。 |
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※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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