生成AIの長期市場見通しについてBloombergに所属するアナリストの見方をご紹介するとともに、関連する注目銘柄の足もとの状況をチェックします。
図表1 注目銘柄
銘柄 | 株価(10/31) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
サービスナウ(NOW) | 581.85ドル | 614.36ドル | 351.25ドル |
エヌビディア(NVDA) | 407.80ドル | 502.66ドル | 129.56ドル |
アドビ(ADBE) | 532.06ドル | 574.40ドル | 278.23ドル |
マイクロソフト(MSFT) | 338.11ドル | 366.78ドル | 213.43ドル |
アルファベット A(GOOGL) | 124.08ドル | 141.22ドル | 83.34ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回はブルームバーグのアナリスト部門「ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)」が作成した生成AIに関するレポート「生成AI、 展開しつつある1兆ドル市場での事業機会と事業崩壊を探る(Generative AI Assessing Opportunities and Disruptions in an Evolving Trillion-Dollar Market)」をご紹介します。
OpenAIによるChatGPTの登録ユーザーが1億人を超えたことを受けて株式市場で生成AIに対する注目が高まったのが今年3月、それから約半年後の9月28日に提出されたレポートで、BIのストラテジスト、ソフトウェアアナリスト、ハードウェアアナリストなど総勢14名が参加するレポートとなっています。
〇生成AI関連市場は10年間で33倍に増加へ
同レポートによると生成AI関連の売上は、2022年実績の398億ドルから10年後の2032年には1.3兆ドルへ約33倍に増加、年平均成長率は42%に達すると予想されています(図表2)。
テクノロジー支出に占める比率は2024年に3%となり、その後年間で約1%ポイントずつ上昇して、2032年には12%に達すると見込まれており、テクノロジー支出の中でも成長性が高い分野になると予想されています。
分野別の売上は、図表3のようになります。2032年予想で売上構成比を見ると、ハードウェアが全体の49%を占めて引き続き重要な市場と予想されています。
ハードウェアでは、AIのトレーニングを行うインフラ関連の比率が大きく、AIによる推論を実行するための端末機器の市場も2027年には立ち上がっていると予想されています。
ソフトウェアは2032年に約2割の市場と予想されています。この中には、AIアシスタント、ワークフローを補助するAI、AIのトレーニングを行うソフトウェア、創薬を行うソフトウェアなどが含まれています。ソフトウェア以外では、広告やゲームが重要な市場になると予想されています。
今後AI関連で注目銘柄を探すときにヒントになる予想と考えられます。
〇成長軌道を確認するための道標
生成AI市場の成長軌道を見ていく上で重要な道標として、今後2〜3年について以下があげられています。
ここにあげられた道標が十分に達成されていれば、生成AIの市場は想定に沿って順調に成長していると考えられる一方、進捗が十分でなければ、成長は想定ほどでない可能性があるということになります。
・2023年下半期:AI計算(AIのトレーニング)を行うためのGPU(画像処理半導体)の入手が改善する
・2023年下半期:大規模言語モデルの進化版によって正確性が高まる
・2024年:ソフトウェア企業が投入するAI機能を利用した「Copilot」の装備率が高まる
・2024年:チャットボットが既存の顧客サービス市場に侵食し、運営コストの削減をもたらす
・2024年:大手インターネット企業が、新たなコンテンツ生成ツールの投入やターゲット広告の改善をもたらす
・2025年:EUが「AI法」を成立させ、最初の包括的な規制を採用する
現在のところ、エヌビディアのAIコンピュータ以外では、生成AIで大きな売上が立った例は知られておらず、市場規模を計測しにくい面があります。そのため、生成AIの市場に対する市場のセンチメントは振れやすいと考えられるため、このような道標は成長が順調かどうかを判断するために有用と考えられます。
図表2 生成AIの市場規模見通し
注:「生成AI比率」はテクノロジー支出に占める割合です。
※Bloomberg IntelligenceのレポートをもとにSBI証券が作成
図表3 生成AIの分野別売上見通し
※Bloomberg IntelligenceのレポートをもとにSBI証券が作成
筆者が執筆した外国株式特集レポートでは、生成AIに関して以下のように取り上げてきました。
[1] 「ChatGPT」で注目高まる「生成AI」の注目銘柄 2023年3月8日掲載
[2] 「生成AI関連、エヌビディアの次に注目すべきはソフトウェア株」 2023年7月26日掲載
[3] 「生成AIでエヌビディアの次に注目のサービスナウ」 2023年9月20日掲載
[1]では、AIのトレーニングに必須のAIコンピュータ市場を支配するエヌビディアが物色の中心となること、また、10年以上前からAIへの投資を行ってきたIT大手、なかでもOpenAIに出資しているマイクロソフトが注目できることをご紹介しました。
[2]では、エヌビディアの株価が買い上げられたため、当面のAI関連物色はソフトウェア銘柄にシフトするとの考えから、AIが事業の成長性を高める可能性が高いと考えられるソフトウェア銘柄をご紹介しました。
[3]では、[2]で取り上げたソフトウェア銘柄の中で、筆者が最も有望と考える銘柄として、サービスナウを中心にご紹介しました。
これらのレポートで取り上げた銘柄群のパフォーマンスをチェックしてみましょう(図表4)。
エヌビディアは年初来の株価が2.8倍に上昇していますが、最近3ヵ月では中国向けが規制される悪材料も出て調整がやや大きくなっています。ただ、業績見通しの上方修正は大幅でPERも低下しているため、いずれ上昇基調に戻ると期待できるでしょう。
その下のIT大手4社は、年初来30%以上の株価上昇となっています。ここ3ヵ月、1ヵ月では、足もとの業績動向によって株価パフォーマンスに差が出てきています。7-9月期の決算が好感されたマイクロソフト、アマゾンドットコムは上昇となっています。
生成AIを事業に生かしやすいと筆者が注目しているソフトウェア企業の、サービスナウとアドビは、最近の株価推移、EPSの修正動向とも良好です。
セールスフォースとパランティアテクノロジーズは、EPSの修正動向は良好なものの、3ヵ月の株価は冴えない推移となっています。シースリーエーアイは、生成AIへの投資拡大によって赤字幅が拡大する見通しです。
なお、Bloomberg Intelligenceのレポートによると、生成AI機能の発展によって既存事業にマイナスの影響が出てくる可能性がある分野として、従来型の顧客関係管理ソフトウェア事業者(Legacy CRM Providers)があげられており、企業としては、セールスフォース、SAP、アドビの名前が挙げられています。
これらの企業もCRM(顧客関係管理)にAI機能を付加して製品を進化させるはずですが、現在のシェア確保に貢献している差別化要因の重要性が低下するということかもしれません。CRMの事業構成比が高いセールスフォースは注意が必要かもしれません。
図表4 生成AI関連銘柄の株価パフォーマンスと投資指標
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇サービスナウ(NOW)
同社は5月にエヌビディアによって企業向けサービスの分野でパートナーとして選ばれ、6月には生成AIを業務執行に取り込むためのバーチャル・エージェント「Now Assist」を投入、7月にはエヌビディア、アクセンチュアと共同で企業が生成AIを自社に取り込むためのプログラム「AI Lighthouse」のサービスを開始しました。9月には「Now Assist」の機能拡張を発表、10月には「Now Assist」に関してデロイトと提携拡大と、生成AI関連で新たな機能の提供、提携拡大が続いています。
企業が生成AIの機能を業務執行に生かしていく上で、頼れる存在になりつつあると考えられます。生成AIによって成長が期待されるソフトウェア企業として引き続き注目できるでしょう。
10/25(水)に発表された7-9月期決算は、売上が前年同期比25%増、調整後EPSが同49%増で市場予想を上回り、通期サブスクリプション収入見通しを中央値を前年比25.5%増へ、従来見通しから0.5%引き上げて好調です。同社は「今年これまでに生成AI関連を含む5,000を超える新機能を追加した」とコメントしており、このような新機能追加が売上の好調を支えているようです。
〇エヌビディア(NVDA)
同社は生成AIが業績に大きなインパクトをもたらしている唯一の企業であり、Bloomberg Intelligenceの予想でもAIのトレーニングを行うAIコンピュータは長期的に重要な市場であり続けるとの見方であり、生成AIで最も注目できる銘柄と考えられます。
一方、ここ3ヵ月の株価は図表4の通り12%下落と調整がやや大きくなっています。10/17(火)に米国政府が中国向け輸出規制を強化し、エヌビディアが中国市場向けに設計したAIコンピュータ用チップ「A800」「H800」シリーズを規制対象としたことが影響しているとみられます。また、同社の株価は一時年初来3倍以上に上昇していたことから利食いが嵩んでいることも影響していると思われます。
8-10月期決算は11/21(火)に発表予定です。市場コンセンサスの売上は、5-7月期の135億ドル(前年同期比102%増)から、8-10月期予想160億ドル(同170%増)、11-1月期予想177億ドル(同193%増)と見込まれています。再びポジティブサプライズを起こすことができるか注目されます。
〇アドビ(ADBE)
ソフトウェアの世界的大手で、画像編集の「Photoshop」、グラフィックデザインの「Illustrator」等のクリエイター向けサービスや、総合PDFソリューションの「Adobe Acrobat」など世界標準のサービスを多数擁します。2016年にAIテクノロジー基盤の「Adobe Sensei」を投入し、AI技術の利用に早くから注力してきました。
2023年3月に画像生成AI「Adobe Firefly」のベータ版を公開して利用が始まっています。「Firefly」はほしい画像のイメージをテキストで入力することによって画像を作成できるもので、「Illustrator」などのソフトウェアに組み込まれており、7月には世界の100以上の言語でのサポートに拡大したことが発表されました。
6-8月期決算は、売上が前年同期比10.3%増、EPSが4.09ドルといずれも市場予想を上回りました。デジタルメディア部門では「Acrobat」等のドキュメント・クラウドが成長を牽引した形です。デジタル・エクスペリエンス部門でもサブスクリプション成長率が13%と好調でした。また、「Firefly」等のAI関連の新機能追加を背景に、11月からの全面的な値上げを発表。「Firefly」が含まれる稼ぎ頭クリエイティブ・クラウドでは9-10%の値上げを実施予定です。
〇マイクロソフト(MSFT)
11月1日から投入するAI機能が利用できる「Microsoft 365 Copilot」への期待が高まっています。Copilotによって、Wordでは原稿案の作成や編集、トーンの変更など、Excelではデータの自動集計や多角的な分析、グラフなどによる可視化などが可能になるとされます。企業向けに1ユーザーあたり月額30ドルで提供され、生成AIが明示的に売上増につながる事例として注目できるでしょう。
エヌビディアを除く大手IT企業の中では、最も効果的にAIを事業に組み込みつつあるとの印象が強まっています。9月の各種報道によると、マイクロソフトの出資比率が49%に達すると言われるOpenAIは、今後1年間に10億ドル以上の利益をあげ、株価評価は800〜900億ドルに達するとされます。
7-9月期決算は、売上・EPSとも市場予想を上回る増収増益でした。企業向けクラウドの「アジュール」の売上伸び率(為替の影響を含む)が4-6月期の前年同期比26%増から同29%増へ上昇、これまでの低下トレンドから脱したことが好感されました。また、PCの出荷台数にリンクする「Windows OEM」の売上が前年同期比プラスに回復したこともポジティブに捉えられます。
〇アルファベット A(GOOGL)
同社はエヌビディアを除く大手IT企業の中でも、AIの研究開発投資が最も大きく、現在保有するAIプラットフォームなどのリソースが最も厚いと考えられています。このため、生成AIへの需要が高まる中で、同社クラウドサービス事業に対する期待が高まっています。
しかし、7-9月期決算では、クラウドサービスの売上が前年同期比22%増と4-6月期の同28%増から鈍化、市場予想も2%下回ったことが失望材料となりました。会社は一部顧客のコスト削減の影響を受けたと説明しました。ただ、AI事業に関する潜在力は高いと考えられるため、引き続き注目できるでしょう。
10/24(火)に発表された7-9月期決算は、売上が前年同期比12%増、EPSが同46%増で、いずれも市場予想を上回って全体としては好調でした。検索連動広告が同11%、YouTube広告が同12%の増収で、いずれも市場予想を上回りました。
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